地域支援事業と自治体の役割

2022/12/19

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地域支援事業は、高齢者が要支援や要介護状態となることを予防し、要介護状態となった場合にも可能な限り自立した生活を継続できるように支援をすることを目的として、市区町村が実施する事業です。

地域の高齢者にとって、より身近な自治体が主体となる地域支援事業とはどのような内容のものでしょうか。

地域支援事業とは

2006年(平成18年)4月、改正介護保険法のスタートと同時に創設された事業で、地域で生活する高齢者が要支援または要介護の状態になることを予防するためのサービスや、要介護の状態となった場合も住み慣れた地域で自立した生活ができるように支援するためのサービスを提供する事業です。

市区町村が主体となって実施され、現在は「介護予防・日常生活支援総合事業」「包括的支援事業」「任意事業」の3つの柱で進められています。

介護予防・日常生活支援総合事業

「介護予防・日常生活支援総合事業」は2015年(平成27年)4月に施行されたサービスで、「総合事業」とも呼ばれます。

これまで行われていた介護予防事業は介護認定において非該当(自立)となった高齢者を対象としていましたが、要介護認定の申請を行わずに介護予防サービスを利用できるようになり、65歳以上のすべての高齢者と要支援1・2の方が対象となりました。

介護保険制度の中の事業ですが、市区町村が主体となって行われる事業であり、全国一律のサービスではありません。地域の実情に応じた多様な内容のサービスを充実させることで地域の高齢者の方々に効果的かつ効率的な支援体制の確立を目指しています。

介護予防・生活支援サービス事業

介護保険の要介護認定で要支援1または要支援2に認定された方と、厚生労働省が作成した「基本チェックリスト」に該当した方が対象です。

市区町村が中心となって地域の実情に応じて地域住民やNPO法人、ボランティア団体、民間企業などが連携してサービスを提供します。

サービスの内容は「訪問型サービス」「通所型サービス」「その他の生活支援サービス」「介護予防ケアマネジメント」に大きく分けられますが、具体的な内容は地域の実情に応じて異なります。

訪問型サービス

ホームヘルパーなどが自宅に訪問して日常生活支援を行います。

介護の専門職が提供する身体介護は要支援の方のみが対象となりますが、その他に市区町村の研修修了者やNPO法人、ボランティア団体による掃除や洗濯、ゴミ出しなどの日状生活支援や困りごとの支援など、多様な生活支援を行います。

通所型サービス

デイサービスなどの施設で機能訓練やレクリエーションなどの支援を受けられるほか、地域住民やNPO法人、ボランティア団体などによって介護予防を目的とした体操や、集いの場の提供などを行います。

通所型サービス

その他の生活支援サービス

配食サービスや見守りサービスなど、民間企業や地域ボランティアなどと連携して、市区町村独自に提供するサービスです。

介護予防ケアマネジメント

介護予防・生活支援サービス事業を利用する方に適したサービスが提供されるために、地域包括支援センターが介護予防ケアプランを作成します。

一般介護予防事業

その地域に住む65歳以上のすべての高齢者が対象です。次の5つの事業で構成されますが、具体的な事業内容は各自治体の実情によって異なります。

介護予防把握事業

「基本チェックリスト」などを活用して、低栄養や閉じこもりなど、何らかの支援が必要な方を把握して介護予防活動へとつなげます。

介護予防普及啓発事業

パンフレットなどの作成・配布、介護予防教室や認知症予防セミナー、講演会や相談会などを開催し、介護予防活動の普及と啓発を行います。

地域介護予防活動支援事業

地域の住民が主体となって、運動や趣味の活動など介護予防に役立つと考えられる活動の育成や支援を行い、高齢者が地域の仲間と楽しみながら活動できるように支援します。

一般介護予防事業評価事業

「介護保険事業計画」に定めた目標の達成状況などを検証して総合事業の全体を評価し、事業の改善に役立てます。

地域リハビリテーション活動支援事業

リハビリテーションの専門職のかかわりを促進し、地域での介護予防の機能強化を図ります。

地域包括支援センターと連携し、通所・訪問サービス、地域ケア会議、サービス担当者会議、地域住民の運営による活動など介護予防の仕組みを支援します。

包括的支援事業

包括的支援事業は大きく地域包括支援センターの運営と社会保障充実分に分けられ、その内容なそれぞれ4つの事業内容があります。

地域包括支援センターの運営

地域包括支援センターは日常生活圏域(中学校区)に1か所設置され、社会福祉士・主任介護支援専門員・保健師の3職種が配置されます。包括的支援事業のうち、次の4つの事業が実施されます。

第1号介護予防支援事業

要支援者以外の介護予防ケアマネジメントを行います。

高齢者の自立支援を目的として、心身の状況や生活環境、その他の状況に応じて対象となる高齢者の選択内容などを考慮し、介護予防に向けたケアを検討します。

総合相談支援業務

地域の中で関係者とのネットワークを構築し、要介護者本人や家族への支援など、相談支援を行います。

初期段階の情報提供から専門的な支援まで、総合的・継続的に相談支援を行います。

権利擁護業務

成年後見制度の活用や高齢者虐待の対応など、専門的な観点から高齢者の権利擁護のために必要な支援を行います。

支援が困難な事例などについて指導や助言などを行い、虐待などの場合には高齢者を老人福祉施設などに措置入所させるなど、事例に即して適切な対応をとります。

包括的・継続的ケアマネジメント支援事業

高齢者ひとりひとりの状況変化に応じて、適切なケアマネジメントの実施やケアマネジャーの技術向上のための指導、支援困難事例への指導・助言、多職種連携による長期的支援などが行われます。

社会保障充実分

事業内容は次の4つで、そのうち地域ケア会議推進事業以外の3事業は、地域包括支援センター以外に委託することができます。

在宅医療・介護連携推進事業

地域における医療と介護の関係機関が連携し、医療と介護の両方を必要とする高齢者に、包括的・継続的に医療と介護を提供してくために、両関係者間の情報共有や必要な研修の実施などの支援を行います。

在宅医療と介護サービスを一体的に提供するための連携体制を構築するための事業です。

生活支援体制整備事業

高齢者の社会参加や生活支援を充実させるために必要な体勢づくりを推進します。

生活支援コーディネーターの配置や協議体の設置などによって、生活支援の担い手やサービスの開発などを行い、高齢者の社会参加と生活支援の充実を図ります。

認知症総合支援事業

「認知症初期集中支援チーム」の設置などによる認知症の早期診断・早期対応や、地域支援推進員などによる相談対応を行い、認知症本人の意思を尊重し、できる限り住み慣れた地域で、その人らしく生活を続けることができるような地域づくりを推進します。

地域ケア会議推進事業

市区町村の努力義務として定められている地域ケア会議の実施を促進します。

地域ケア会議とは、地域包括支援センターなどが主催し、医療や介護などの多職種が協働して個別事例の検討を行い、地域のネットワークを構築したり、ケアマネジメントの実践力を高めていくものです。

任意事業

任意事業は地域支援事業の理念にかなった事業が、地域の実情に応じて市区町村独自の発想や工夫によって実施されます。市区町村が主体となり、多様な事業展開が可能です。

地域支援事業についてのまとめ

地域支援事業は高齢者が要支援や要介護の状態となることを予防し、要介護の状態となった場合にも地域の中で生活し続けることができることを目的として、市区町村が主体となって地域の実情に合わせて実施する事業です。

医療や介護の専門職はもちろん、地域住民やNPO法人、ボランティア団体など、地域資源も含めた地域全体が連携して高齢者を支援する体制を整えていくために、市区町村などの自治体が中心的な役割を担っているといえます。