介護予防とは?一次予防が健康寿命を延ばすカギ!制度やサービスなど詳しく解説

2023/07/25

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高齢化が進展したわが国では、80歳から84歳の高齢者の3人に1人、また85歳から89歳の高齢者の半数が、何らかの介護が必要な状態です。

介護難民や老老介護、社会保障費の増大など介護にまつわるさまざまな問題が懸念されている昨今、介護を必要とせず、自立した日常生活を送ることができる期間である「健康寿命」を延ばすことが重要と考えられています。

健康寿命を延ばすカギは「介護予防」にあります。

ここでは、介護予防の基本的な考え方をはじめ、一次予防・二次予防といった介護の段階、介護要望にまつわる制度・サービスなどについて解説します。

介護予防について

介護予防とは?

介護予防については、厚生労働省により以下のように定義づけられています。

高齢者が要介護状態になることをできる限り防ぐ(遅らせる)こと、そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと

 

厚生労働省による『令和3年簡易生命表』を見ると、令和元年の男性の平均寿命は 81.47 年、女性の平均寿命は87. 57年となっています。

新型コロナウイルスの影響で前年よりは下回ったものの、今後も平均寿命の上昇が見込まれています。

一方で、日常的に介護などを必要とすることなく、自立した生活を送れている期間を指す健康寿命は男性が72. 68年、女性は75. 38年となっています。

これは前年を上回る数値ですが、平均寿命と健康寿命との差は、男性8. 79年、女性は12. 19年であり、世界的に見ても男女ともに平均より長くなっています。

この平均寿命と健康寿命との差はつまり、介護を必要とする期間ということです。長くなればなるほど、家計や社会保障費の負担が大きくなります。

高齢化が急速に進むなか、国民一人ひとりの生活の質を維持し、社会保障制度を持続可能なものとするためには、健康寿命の延伸とともに平均寿命との差を縮小することが重要です。

そのために必要な取り組みが、「介護予防」です。

【一次予防・二次予防・三次予防】介護予防の段階

少子高齢化、介護業界の慢性的な人材不足など、さまざまな背景により、健康寿命の重要性が高まっています。

健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活を送ることができる期間のことです。

健康寿命を延ばすためには、介護予防が不可欠だと考えられています。

介護予防とは、要介護状態を未然に防ぐこと、または既に要介護状態の場合は状態が悪化しないよう努めることです。

介護予防は、状態の段階ごとに3つの要素で構成されます。
・活動的な状態:一次予防
・虚弱な状態:二次予防
・要介護状態:三次予防

一次予防〜三次予防の定義づけは、以下のとおりです。
一次予防〜三次予防の定義づけ

【活動的な状態】一次予防
一次予防は、健康的な高齢者が対象です。一次予防では、適切な運動などを通じて、要介護状態のきっかけとなる病気にならないための取り組みを行います。
つまり一次予防の目的は、要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)ことにあります。

【虚弱な状態】二次予防
二次予防は、一次予防の身体状態から少し進み、要支援・要介護状態に陥るリスクが高い高齢者が対象とされます。
病気などを早期に発見、治療してその悪化をできる限り防ぐことで、要介護状態に陥るリスクを抑えることが目的です。

【要介護状態】三次予防
三次予防では、要支援・要介護状態にある高齢者が対象です。
病気を発症して、なんらかの後遺症が現れたときにはリハビリテーションに取り組み、早期社会復帰を目指します。
要支援・要介護状態の改善や重症化予防が目的です。

「0(ゼロ)次予防」という考え方

一次予防・二次予防・三次予防に加えて、「0次予防」という考え方もあります。

これは、一次予防などのように個人に働きかけるのではなく、個人を取り巻く環境を改善しようというものです。

0次予防には、「本人を取り巻く環境によって、健康状態が違う」という考えが根底にあります。

環境が身体状態に与える影響とは

例えば、公共交通機関が発達している都会に住む高齢者と比較すると、交通の便が悪く車での移動が多くなる地方在住の高齢者のほうが、下肢筋力が低下しやすくなります。

このような環境と健康状態の因果関係をふまえて、介護現場において0次予防という考え方が取り入れられるようになりました。

0次予防には、認知症リスクおよび死亡リスクの低減といった効果が期待できます。

バリアフリーな環境だけが介護現場の正解ではない?

ほとんどの介護施設では、バリアフリーの環境が整っています。その一方で、あえて段差のある環境をつくっているデイサービスもあります。

段差をつくることで、高齢者自身が意識して足を持ち上げることになります。

足をしっかり持ち上げる癖をつけることで、下肢筋力の維持向上を図ろうという考え方によるものです。

環境が身体状態に影響することをふまえると、必ずしも徹底したバリアフリー化が有効ではないということです。

新しい介護予防の制度

各自治体では、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう地域全体で支え、高齢者の社会参加により介護予防につなげる取り組みが行われています。

平成26年の法改正までは、介護予防事業は一次予防、二次予防と分けられていましたが、現在ではこの区分は撤廃され、従来の介護予防給付と、介護予防事業をあわせた制度「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)」としてリニューアルしました。

「総合事業」とは

総合事業は、市町村が中心となって、地域の実情に応じて、住民等の多様な主体が参画し、多様なサービスを充実させることです。

これにより、地域の支え合い体制づくりを推進し、要支援者等の方に対する効果的かつ効率的な支援等を可能とすることを目指しています。

従来の介護予防事業との違い

従来の介護予防事業では、国の介護保険制度によって施設基準や介護報酬が定められており、全国一律でした。

しかし総合事業は全国一律ではなく、各市町村が基準や単価を設定して運営しているため、各市町村の実情に応じた取り組みが可能となりました。

また、総合事業が創設される前は、介護予防事業の対象は介護認定の申請をした「要支援者」のみでした。

ところが総合事業では、要支援者に加えて65歳以上の高齢者が対象となり、これまでサービスの利用に結びつかなかった高齢者もサービスが利用できるようになっています。

総合事業で利用できるサービス

総合事業で利用できるサービスとは?

総合事業には、「介護予防・生活支援サービス事業」「一般介護予防事業」の2つがあります。

〇介護予防・生活支援事業
介護予防・生活支援事業では、「訪問型サービス」「通所型サービス」「その他の生活支援サービス」「介護予防ケアマネジメント」の4つのサービスが設けられています。

種類 名称 特徴 内容
訪問型サービス 訪問看護 従来の訪問介護に相当 従来の訪問介護と同様
訪問型サービスA 緩和した基準による

サービス

掃除、洗濯、調理などの日常生活支援に限定した生活援助
訪問型サービスB 住民主体による支援 ゴミ出しや簡単な掃除、洗濯などの日常生活支援サービス
訪問型サービスC 短期集中予防サービス 専門職が訪問し、運動機能の訓練や閉じこもり指導が3~6か月の短期間で行われる
訪問型サービスD 移動支援 通所介護への送迎や買い物、通院時などの支援
通所型サービス 通所介護 従来の通所介護(デイサービス)に相当 従来の通所介護と同様
通所型サービスA 緩和した基準によるサービス 入浴や食事は提供されず、運動機能訓練やレクリエーションが行われる
通所型サービスB 住民主体による支援 体操やレクリエーション、定期的な交流会など
通所型サービスC 短期集中予防サービス 通所介護を利用して、専門職による運動機能の訓練や閉じこもり指導が3~6か月の短期間で行われる
その他の生活支援サービス 栄養改善を目的とした配食 配食サービス
住民ボランティア等が行う見守り 見守り
訪問型・通所型

サービスに準ずる

自立支援に資する

生活支援

訪問型・通所型サービスの

一時利用

介護予防マネジメント 地域包括支援センターが介護予防ケアプランを作成し、ケアマネジメントを行う

〇一般介護予防事業
一般介護予防事業には、「介護予防把握事業」「介護予防普及啓発事業」「地域介護予防活動支援事業」「一般介護予防事業評価事業」「地域リハビリテーション活動支援事業」の5つがあります。

一般介護予防事業は、高齢者の生活機能の改善や生きがいづくりを重視した介護予防に役立つ事業であり、市町村が民間サービスや地域住民と連携してサービスの提供が行われます。

例えば、体操や趣味の講座や介護予防に関する講演会など地域住民が主体となって参加できる社会活動の場があります。

地域によって活動内容や利用できるサービスはさまざまですが、65歳以上の高齢者であれば要介護認定を受けていなくても利用することが可能です。

<総合事業を利用するには?>
総合事業を利用したい場合には、お住まいの市町村の窓口か、地域包括支援センターに相談しましょう。

明らかに要介護認定が必要な場合や、予防給付や介護給付といった介護保険を利用したサービスを希望する場合には、要介護認定の申請が行われます。

ただし、要介護認定を申請しなくても、基本チェックリストにより対象者と認定された場合にはサービスを利用できるのが総合事業の特徴です。

周囲とのつながりが健康寿命を延ばす

介護予防について、身体状態ごとの一次予防・二次予防・三次予防、そして環境を整える0次予防といった考え方について解説してきましたが、「つながる予防」も重要です。

私たちは、家庭や地域社会、職場や学校など、何らかの集合に参加して、さまざまなつながりのなかで生きています。

病気などをきっかけに高齢者が要介護状態となると、外出の機会が減り、周囲とのつながりが少なくなりがちです。

すると、身体状態の悪化や、認知症を引き起こす可能性が高まります。

とくに近年は、看取りの増加や、高齢者の孤立、高齢者の困窮など、さまざまな社会問題が見込まれる2040年に向けた「地域共生社会」の構築が望まれています。

介護予防という観点からも、地域社会において幅広い世代がつながり、共生していくための取り組みも必要です。

健康寿命を介護予防で延ばしましょう

現行の制度では、介護予防について一次予防・二次予防と区分せず、要件に当てはまるすべての65歳以上の高齢者を対象に、市町村が中心となって地域の実情に応じた取り組みを行っています。

介護保険法は社会のニーズに合わせた制度とするために3年に1度改正されており、介護はケアする時代から予防する時代へとシフトしています。

これからの介護予防には、機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく、生活環境の調整や、地域の中に生きがい・役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど、高齢者本人を取り巻く環境へのアプローチも必要です。高齢者が周囲とのつながりを持てる社会が求められています。

高齢者の人数は今後も増加していくことが見込まれていますが、一方で昔と比べると体力が平均的に向上していたり、社会参加や就業率が上昇していたりして、高齢者全体に若返り現象が見られているともいわれています。

歳を重ねてもQOLを維持して健康的に暮らせるよう、早期から介護予防に取り組んでいきましょう。

参考:
『令和3年簡易生命表の概況』 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/index.html

『2019年国民生活基礎調査の概況』 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/index.html