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認知症ケアで注目されるユマニチュードとは?
2023/02/21
認知症ケアの技法として注目を集めている”ユマニチュード”。主に認知能力が低下した高齢者や、認知症患者に対して行われるものです。
介護に携わる方のなかには、「ユマニチュードの効果は?」「介護の現場でどう取り入れたら良いの?」などと疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では、ユマニチュードの概要をはじめ、ユマニチュードにおける3つの目標、実践する際に大切な4つの柱、5つのステップについて解説します。
目次
認知症への効果が期待されるユマニチュードとは
ユマニチュードとは、”人間らしさ”と”優しさ”を大切にするケアを目指すものです。
認知能力が低下した高齢者や、認知症患者の認知力の向上のために行われます。
元々ユマニチュードとは”人間らしさを取り戻す”ことを意味するフランス語で、フランス発祥の認知症のケア技法です。
日本においては、2014年頃から普及啓発され始めました。
“人間は生まれながらにして自由であり、尊厳と権利について平等である”という理念を実現させる手段の一つとして、ケア技術を捉えていることが特徴です。
ケアする側・される側ではなく、ともに”優しさ”を共有することが基本の概念となっています。
ユマニチュードによる認知症ケア【3つの目標】
ユマニチュードを実践するにあたっては、ユマニチュードによる認知症ケアの目指すところを知っておく必要があります。ここでは、3つの目標を紹介します。
▼ユマニチュードの3つの目標
①心身の回復を促進する ②身体機能・能力を維持する ③最期まで寄り添う |
①心身の回復を促進する
ケアを行うときは、心身の回復を目指すものであることが必要です。
そのためには、ケアされる人が自力でできることまで手伝って回復を阻害することのないようにしなければなりません。
例えば、歩くことを目標としている方の場合、体を拭くときもなるべく立った状態で行う、清掃をするときにできるだけ立った状態でいてもらうなどのアプローチが考えられます。
②身体機能・能力を維持する
認知症ケアでは、今ある身体機能や能力を維持していくことも大切です。
その際、できる・できないを介護者が判断するのではなく、ケアされる人自身ができることを優先させることが求められます。
例えば、少しでも歩ける方の場合、途中まで付き添うことで、目的の場所まで歩くという行為を実現できるようなサポートを行います。
また寝たきりでない場合には、日頃から軽い体操を促すといったことも有効です。
③最期まで寄り添う
緩和ケアの段階になったとしても、最期まで人間としての尊厳を大切にし、その人らしく過ごせることを目指します。
身体機能の回復や維持が困難な状態にあっても、その人に残る”生きる力”を奪わないようにすることを意識した接し方が必要です。
ユマニチュードによる認知症ケア【4つの柱】
ユマニチュードを実践するうえで必要な、4つの柱というケア技術があります。それらを同時に、複数組み合わせて行うことがポイントです。
▼ユマニチュードの4つの柱
①見る ②話す ③触れる ④立つ |
①見る
“見る”という行為によって、ポジティブなメッセージを伝えます。また長時間見つめることは、友情や愛情を示すメッセージとなります。
“見る”ときのポイントは、以下のとおりです。
・目線の高さを合わせて、対等な立場であることを伝える
・近くで見て、優しさや親密さを伝える
・正面から見て、正直さや信頼感を伝える
介護者はケアする際、作業する対象部位に注目してしまいがちです。相手を”見る”ことを意識して、メッセージを伝えることが大切です。
②話す
“話す”ときに大切なことは、声のトーンは低めに優しく話し、前向きな言葉がけをすることです。
相手を大切に思っていることを伝えようとする姿勢が求められます。
“話す”ときのポイントは、以下のとおりです。
・低めの声⇒安定した関係が構築できる
・大きすぎない声⇒安心できる環境がつくれる
・前向きな言葉⇒心地よい状態が実現できる
話せない方をケアする場合のコミュニケーション技法として、”オートフィードバック法”があります。
これは自分がいま実施しているケアの状況を、自ら中継するやり方です。
③触れる
“触れる”ことも、ユマニチュードの認知症ケアでは重要な要素となります。
触れる行為は相手にメッセージを伝える大切な技法の一つなので、触れる場所や触れ方を意識して行いましょう。
“触れる”ときのポイントは、以下のとおりです。
・広い面積で触れる
・つかんだり、ひっかいたりしない
・相手に合わせて手を動かす
まずは背中や上腕など、感度が鈍い部分から触れて安心感を与えることも効果的です。
④立つ
“立つ”ことは、尊厳や人間らしさの象徴ともいえる行為です。
“立つ”ことをサポートし続けることで、人間としての自信や誇りを取り戻すきっかけになるケースもあります。
認知症ケアを行う際、1日20分ほどの立つ時間や機会を設けると、立つ能力は維持されるといわれています。
例えば更衣やトイレなどの場面で、立位をとる時間を作ることで寝たきりの予防に効果的だと考えられます。
ユマニチュードによる認知症ケア【5つのステップ】
ユマニチュードを取り入れる介護現場においては、日々の活動を5つのステップで区切ってケアを実施します。
出会いから再会の約束まで、まるで一つのストーリーのように展開されていくことが特徴です。
▼ユマニチュードの5つのステップ
① 出会いの準備 ② ケアの準備 ③ 知覚の連結 ④ 感情の固定 ⑤ 再会の約束 |
①出会いの準備
出会いの準備とは、介護者が来訪したことを知らせ、ケア開始の予告をすることです。
これは、突然自分の部屋に入られると、自身のプライバシーが守られていないと感じ、不安・不快な思いを抱く可能性があるためです。
具体的には、3回ノックをして3秒待ち、返事がなければ再度3回ノックをして3秒待ちます。
それでも返事がなければ、1回ノックして「入りますよ」と声をかけて入室します。
そして、ベッドボードをノックしてからケアへと進みます。
②ケアの準備
ケアの準備として、ケアの内容を説明して同意を得ることが必要です。
ケアされる側の合意のないまま実行するケアは、強制的な行為といえます。
無理矢理ケアを開始するのではなく、合意が得られない場合には一旦諦めることも大切です。
相手の尊厳を重視するためにも、この同意を得るというステップが不可欠だと考えられています。
③知覚の連結
ケアの合意が得られたら、知覚の連結というステップへ移ります。
知覚の連結とは、4つの柱のうち、「見る」「話す」「触れる」の中の2つを同時に行うことを指します。
例えば、「目を見ながら、身体に触れる」「手を添えながら、説明する」などです。
すると、ケアされる側は安心感を抱きやすく、ケアを受け入れやすい状態となります。
④感情の固定
ケアを終えたときは、気持ちよくケアが受けられたことを言葉にして記憶にしっかりと定着させます。
ケア終了後、すぐに振り返りをすることがポイントです。
例えば、「シャワーを浴びて気持ちよかったですね」とケアを前向きに捉えたり、「私も楽しかったです」と介護者の喜びの気持ちを伝えたりすると、よい印象が記憶に残りやすくなります。
認知症の方の場合、出来事を忘れることはありますが、感情の記憶については比較的維持されやすい傾向にあります。
⑤再会の約束
ケアを終えてそばを離れる前に、再開の約束をします。感情の記憶がより定着しやすくなり、次のケアがスムーズに進められるようになります。
声をかけるだけでなく、メモに残しておくと効果的です。目に触れやすい場所に置いておくと、再会を楽しみにしてくれるかもしれません。
ユマニチュードによる認知症ケアの効果とは?
認知症ケアでユマニチュードを取り入れることは、ケアする人(介護者)・ケアされる人の(被介護者)双方にメリットがあります。
ケアされる人は、自分が一人の人間として大切にされていることを感じられることにより、感情が穏やかになるとされています。
このようなことから、認知症患者への向精神薬の使用や、施設から病院への搬送が減少することで、医療費削減の効果も期待できます。
ケアする人にとっても、ケアされる人が穏やかに信頼感を持ってケアを受け入れてくれることで、介護における心身の負担が軽減されます。
良好な関係を築きながらケアできるため、介護従事者は仕事に対する満足度にもつながります。
介護する側もされる側も充実感が得られる、ユマニチュードによる認知症ケア
人間らしく暮らすことは、高齢者や認知症の方にとっても最期まで大切な営みです。この考え方を、認知症ケアの技法に活かしたのが、ユマニチュードです。
介護する人も、介護される人も、ユマニチュードにより信頼関係を築きながら生活を送ることで、充実感が得られます。
介護業界の方や、ご家族の介護をされている方は、ユマニチュードの考え方を理解し、実践してみてはいかがでしょうか。