生産性とは?介護分野における評価方法

2022/12/20

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これまで「生産性」とは民間企業で生産効率の分析などに利用される考え方であり、仕事の対象が高齢者である介護の分野には適用しにくいとされてきました。

しかし近年では、介護業界でも生産性の向上を図ることが重要といわれるようになっています。

介護分野における生産性とはどのようなことを指しているのでしょうか。

生産性とはどんなもの?

生産性とは経済学で使われる用語で、労働・資本・設備・原材料など生産要素の投入量(=インプット)と、これによって作り出される生産物の産出量(=アウトプット)の比率のことです。

少ないインプットからより多いアウトプットが得られれば、生産性が「高い」という評価になります。

評価には「一定のインプットでどれだけのアウトプットを生み出せるか」という見方と、「一定のアウトプットをどれだけ少ないインプットで生み出せるか」という見方があり、類似の他者と比較することでより有効な評価指標になります。

業種による生産性の違い

製造業では、資材などの材料からエネルギーを使って機械を稼働させ、社員の労働力で製品を作っています。

この場合インプットは資材・材料、エネルギー、労働力などであり、アウトプットが完成した製品なので、その生産性はイメージしやすいといえます。

介護業界では形のある製品を作り出すのではなく、主なアウトプットは「介護サービス」であり、その生産性はイメージしにくいかもしれません。

介護分野においては、業務のムダを無くして効率よく仕事をこなし、さらにその結果としてサービスの質が向上していくことなどが、生産性の向上と捉えることができます。

物的生産性と付加価値生産性

生産性には「物的生産性」と「付加価値生産性」があります。

物的生産性とは生産するものの大きさや数など、物量を単位としたときの生産性です。付加価値生産性は生産物が売れたときの金額的な価値のことです。

もうひとつ「労働生産性」という生産性は、労働者1人あたり、または労働時間1時間あたりに生産できる成果を数値化したもので「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」があります。

物的労働生産性は労働者1人がどのくらい効率的に物やサービスを生産しているかを示す数値であり、付加価値労働生産性は労働者1人あたりの付加価値額を示します。

付加価値労働生産性の数値が高い場合、従事する1人の労働者が効率よく働いていると考えられます。

生産性の向上が求められる理由

厚生労働省が推計した近い将来必要な介護職員数は、2025年度は約243万人、2040年度には約280万人とされ、2040年時点で69万人の介護人材が不足すると考えられています。

現在介護の仕事に携わる人は増加傾向にあるといわれていますが、今後の高齢者数の増加には到底追い付いていないのが現状です。

つまり高齢化による介護サービスの需要拡大と、介護業界の人材不足の差を埋めるということが、生産性の向上が求められるようになった理由のひとつです。

人員配置基準の緩和

介護人材の不足を背景に、介護施設などの人員配置を緩和しようという動きがあります。

人員配置基準とは、サービスの質を担保するために介護事業所の種類ごとに必要な職種の人数を定めたものですが、これを現在の入所者3人:介護職員1人から4:1に緩和しようというものです。

この配置基準の緩和によって雇用しなければならない介護職員の最低人数が少なくなり人件費の削減につながるため、経営者側にとっては事業所の運営を助けるというメリットがあります。

しかし介護職員1人あたりの業務量が増えるというデメリットがあることは確実で、そのデメリットを何らかの方法で補填することが必要です。

アウトソーシング

介護職員の業務負担を軽減し、生産性を向上するための方法のひとつとして、介護職員ではなくてもできる仕事は外部の専門業者に委託するアウトソーシングがあります。

食事の調理は給食会社、洗濯や掃除などもそれぞれプロの業者に委託することで介護職員は介護に専従でき、介護業務の効率化が期待できます。

ICTの活用

国は、介護現場にもさまざまな介護ロボットやデバイスを導入することを推進しており、厚生労働省では導入にあたり補助金の制度も用意しています。

「ケアテック(介護テック)」などと呼ばれる介護の運営業務全般にかかわるAIやIOT、ICT、クラウドシステムなどの最先端技術と、それらを活用した製品やサービスの導入によって、生産性を向上できる可能性があります。

しかしこれらのシステムの導入には高額の初期費用に加えて、アフターケアなどを含めたランニングコストがかかり、事業所によって格差が生じているのが現状です。

生産性の介護分野における向上とは

従業員数を減らして1人あたりの仕事量を増やせば、生産性は高まるといえます。

しかし常に十分な職員数の確保が困難な状況にある介護業界では、1人あたりの仕事量が増えて労働負担が増すことは、介護サービスの質の低下を招く恐れもあります。

全国老人福祉施設協議会では、介護分野における生産性の向上を「労働負担の軽減」「介護サービスの質の向上」「業務の効率化」と捉え、その具体的方法についてはアウトソーシングやICTの活用のほか、次のような具体的手法を挙げています。

業務改善

業務改善とは介護事業所における業務の進め方や方法、分担などを見直し、合理化・効率化を図る取り組みです。

業務上の「ムリ・ムダ・ムラ」をみつけ、それらを無くすための仕組みや方法を再構築していくことになりますが、その際に重要なのは介護にかかわる職員自身のやる気や意識を大切にして働き甲斐や働きやすさを実現し、持続が可能な方法でなければなりません。

タスクシフティング・タスクシェアリング

「タスクシフティング」とはもともとは医療業界において、医師の人材不足を解消するために業務の一部を看護師や他の医療職に任せていく取り組みのことでしたが、介護の現場でも、介護職員の業務の中で他職種でもできる仕事を分担していくものです。

「タスクシェアリング」は「多職種連携」と言い換えられることもあり、ひとつの業務を複数人や複数の職種で協同して行うことを指し、いずれも介護職員の業務軽減や効率化の効果を期待したものです。

介護助手、アクティブシニアの活用

タスクシフティングのうち、介護サービスの利用者である高齢者に直接接する「直接介護」以外の、ベッドメイキングや食事の配膳、清掃、洗濯など「間接介護」にあたる業務を担う「介護助手」の活用があります。

さらに「介護助手」へのタスクシフティングのうち、その業務を地域のアクティブシニアと呼ばれる高齢者に担っていただく取り組みも進められています。

生産性の介護分野における評価方法

生産性の向上を考えるとき、評価のためには生産性を数値で表せることが理想的です。

しかし民間企業の運営と社会福祉法人の運営では、同じ計算式で比較することはできませんし、もともとの「生産性」の概念を介護分野にそのまま適用することは難しい面も多く、これまでとは異なる介護分野の実情に適応した生産性の考え方があるべきという意見もあります。

現在は、介護分野独自の生産性の計算式や評価方法が研究機関や専門家たちによって、さまざまな観点から検討されています。

経営面から見た生産性の評価

社会福祉法人は営利を目的としないため金額から生産性を計ることは困難な部分もありますが、厚生労働省では日銀方式に準じ、財務ベースで付加価値労働生産性を計算する計算式を定めています。

これによって民間企業に準じた生産性を算出でき、経営者の立場から民間企業との比較が可能となります。

介護分野の実情に応じた生産性の評価

現在統一された評価方法は無く、生産性を向上するための要素からさまざまな評価方法が検討されています。

介護現場によって実情が異なるため、他事業所との比較は難しいといえますが、同一事業所内で継続して同じ方法で生産性を評価していくことで、業務改善の取り組みを行った前後の生産性の評価をすることができます。

生産性とは?介護分野における評価方法

介護分野における生産性は他の業種のように数値化しにくく、その評価方法は専門家らによって検討されています。

今後も介護人材の大幅な不足が予測されており、介護職員1人あたりの業務量が増加していくことは避けられない状況にあります。

そのため現状の業務内容を見直し、アウトソーシングやICTの活用などによって業務改善を図り、生産性を向上していくことは、現在の介護サービスの質を維持・向上し、介護職員の雇用を確保するためにも重要です。