自立支援介護とはどんな介護?4つの基本ケアについて

2023/07/25

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誰でも、年齢を重ねても自分の足で歩き、食事などの制限なく、生活を楽しみたいと考えます。

しかし少子高齢化が進む日本では、高齢者が自立した生活をいかに続けられるかが大きな課題となっています。

今回は、介護が必要になった高齢者の自立を支援する介護について考えてみます。

高齢者の「自立支援」とは?

一般的に、子どもが義務教育を終え、やがて仕事をするようになって親の手を離れると、「自立した」と言います。

では、高齢者、特に要介護者にとっての「自立」とは、いったいどのようなことなのでしょうか?

国は高齢者の自主性を尊重し、年齢を重ねても自分らしく生活するために、支援によってできないことができるようになることを自立とし、日常生活にかかわる様々な支援を自立支援と考えて「自立支援介護」を重視する方針を打ち出しています。

移動や排泄などの身体介護に加えて、精神的な自立、社会的な自立を支援するための介護も含まれます。

介護における3つの自立とは

介護において要介護者の自立について明確な基準はありませんが、「身体的自立」「精神的自立」「経済的自立」の3つの自立があると考えられており、これらは相互に影響を及ぼしています。

どれかひとつでも虚弱になることでバランスが崩れ、生活に支障が生じます。

〇身体的自立

「身体的自立」は、それまでの日常生活を継続していくために必要な動作を自分で出来ることです。

具体的には外出や、食事や排泄、入浴など生活に欠かせない動作の全てを指し、それらの動作が自分の思い通りにできないことで、生活に不便を感じるようになります。

〇精神的自立

「精神的自立」は、自分の人生や生活について自分で判断し、行動できることです。

加齢に伴う認知機能の低下や、精神疾患、認知症などによって、適切な判断や行動が困難となることで、日常生活や社会活動に支障をきたすことがあります。

〇経済的自立

本人の収入によって生活に必要な費用を賄うことができ、適切に使用できることです。

収入は就労によるものとは限らず、年金収入なども含みます。経済的に困窮することや、金銭管理が適切にできないことは生活に支障をきたします。

自立支援介護における4つの基本ケア

では、高齢者が自立するためにはどのような支援が必要になるのでしょうか?

自立支援介護では高齢者の自主性を尊重し、自分だけでは困難なことを中心に支援して自分で取り組む機会を減らさないようにすることで、日常生活の自立を目指します。

高齢者の自立のために必要な支援として、健康を維持するために欠かせない「水分」「栄養」「排泄」「運動」の4つの基本ケアが大きな柱とされています。

〇水分ケア

人間は水がなくては生きていけません。

成人の体の約60%は水分であるといわれていますが、高齢者は50%程度に減少していると考えられています。

厚生労働省では、一般的に健康な成人では1日に約2.5リットルの水分が体から排出されているため、同じく2.5リットルの水分摂取を勧めています。

この2.5リットルには体内で作られる水と食事から摂る水も含まれているので、それらを差し引いた約1.2リットルの水分を飲み物から摂ることになります。

実際に必要な水分摂取量には個人差がありますが、体内の水分は筋肉に多く貯留していて、筋肉量が減少している高齢者は体内の水分が少なくなっているため若い人よりも脱水症のリスクが高く、こまめな水分補給が必要です。

さらに高齢者はのどの渇きを感じにくいことがあり、トイレの回数を気にして積極的に水分を摂らない方も多くいます。

自立支援介護においては1日に1.5リットルの水分摂取が勧められていますが、なかなか飲みきれない方も多いので、1日を通してこまめに水分補給をし、飲み物以外にも、ゼリーや果物なども利用するとよいでしょう。

ただし、疾患によって食事や水分摂取に制限がある場合はこの限りではありません。食事や水分摂取についてはかかりつけの医師や管理栄養士の指示に従いましょう。

〇食事ケア

2020年版日本人の食事摂取基準では、身体活動レベルがⅡ(ふつう)の場合のエネルギー必要量は、65~74歳で男性2,400Kcal/日、女性1850Kcal/日、75歳以上では男性2,100Kcal/日、女性1650Kcal/日とされています。

高齢者の場合、体格や生活環境、運動習慣、疾患の有無などによっても必要な栄養量は個人差が大きいため一概には言えませんが、栄養量の不足は筋力低下や認知症の発症にもつながる可能性があり、自立支援介護では1日あたり少なくとも1,500Kcal以上の食事摂取を勧めています。

安全に、満足感のある楽しい食事をするためには、「噛む力」や「飲み込む力」を維持することも重要であり、口腔ケアや口腔機能を維持するための嚥下体操なども併せた取り組みが効果的です。

<2020年版日本人の食事摂取基準>

性別 男性 女性
身体活動レベル Ⅰ(低い) Ⅱ(普通) Ⅲ(高い) Ⅰ(低い) Ⅱ(普通) Ⅲ(高い)
65~74歳 2,050 2,400 2,750 1,550 1,850 2,100
75歳以上 1,800 2,100 1,400 1,650

※身体活動レベルについて
・Ⅰ(低い)
生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合。
75歳以上では、自宅にいてほとんど外出しない、または高齢者施設などで自立に近い状態で生活している場合に適用できる。
・Ⅱ(普通)
座位中心の仕事で、職場内での移動や立位での作業・接客業、または通勤・買い物・家事や軽いスポーツなどのいずれかを含む場合。
75歳以上では、自立した生活を送っている場合に相当する。
・Ⅲ(高い)
移動や立位の多い仕事の従事者、またはスポーツなどの活発な運動習慣を持っている場合。

〇排便ケア

高齢になるとさまざまな原因で便秘を起こしやすくなります。

便秘の対処として下剤を使用することで、排泄パッドやオムツの利用につながるケーズもあります。

厚生労働省では便秘について次のように定義しています。<厚生労働省e-ヘルスネットより>

1.「便秘症」の診断基準:以下の6項目のうち2項目以上を満たす。

a.排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b.排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便(BSFSでタイプ1か2)である。
c.排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d.排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉そく感や排便困難感がある。
e.排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である。(敵便や会陰部圧迫など)
f.自発的な排便回数が、週に3日未満である。

2.「慢性」の診断基準

6か月以上前から症状があり、最近3か月間は上記の基準を満たしていること。

自立支援介護における排便ケアでは、3日以内の自然排便があることを理想的としています。高齢者の便秘の原因として、次のような問題が考えられています。

①食事の量が減る

加齢に伴って食事の量が減ることで便の量も減少し、便秘の原因になります。

また食事のバランスが乱れることで食物繊維などが不足し、便秘の原因となることもあります。

②腸の活動が低下する

加齢に伴って腸の活動が低下し便が腸に長くとどまると、便中の水分が再吸収されて便が硬くなり、排便しにくくなります。

③便を押し出す力が弱まる

麻痺や疾患の影響、加齢などの原因によって腹筋や肛門の筋力が低下することで、便を押し出す力が弱まって排便しにくくなります。

④便意を感じにくくなる

便が直腸に到達すると大脳に信号が送られて便意を感じます。高齢者の場合、便意を感じる働きが低下していることがあり、排便のタイミングを逃してしまうことがあります。

⑤自律神経の乱れ

排便には自律神経の働きが深くかかわっています。疾患や加齢によって自律神経のバランスが乱れることで便秘を引きおこすことがあります。

⑥薬の副作用

副作用として便秘を生じる薬があります。高齢者は慢性疾患の治療のため、複数の薬を服用していることも多く、薬の副作用によって便秘が生じることがあります。

さまざまな便秘の原因について検討し、適切な対応によって排便トラブルの改善に役立つと考えられます。
〇運動ケア
運動は自立した生活を継続するために欠かせない要素であり、水分ケアや食事ケア、排便ケアにもつながります。

また認知症予防の効果など、精神的自立のためにも効果的と考えられます。

厚生労働省では、70歳以上の男性で6,700歩/日、女性で5,900歩/日程度を目標として掲げています。

自立支援介護における運動ケアでは、1日2キロの歩行が目標とされていますが、必ずしも続けて2キロ歩くということではなく、買い物などで外出したときの歩行も含みます。

特に自宅に引きこもりがちな生活習慣の高齢者に対しては、社会参加活動を行うことも効果的であり、年齢や能力に応じた運動習慣を持つことが理想的です。

ただし関節などに痛みがあったり、疾患によって運動に制限があったりする場合はこの限りではありません。

かかりつけの医師や理学療法士などの指示に従い、適切な運動を行いましょう。

現在はデイサービスなどの介護施設やリハビリ施設だけではなく、一般的なスポーツクラブなどにも理学療法士や健康運動指導士、介護予防運動指導員などの資格を持った職員が在籍していることがありますので、体力や疾患などについて相談しながら利用するのも効果的です。

運動ケア

「精神的自立」のために

高齢者の「精神的自立」の要素のひとつに「自己決定」の力があります。

身体的、経済的自立が虚弱になった場合にも、精神的自立によって補うことができれば、自立した生活を維持できる可能性が高くなるとも考えられています。

日常生活自立支援事業

認知症や精神疾患などによって判断能力が不十分な状態であっても、地域で自立した生活を送るために、都道府県が実施主体となって行われている事業です。

福祉サービスの利用や行政手続きの援助、日常生活費の管理などの援助を受けることができます。

高齢者の社会参加活動

社会参加活動とは収入を伴う就労のほか、地域の活動、ボランティア活動、趣味の活動など、人と人がかかわり合う機会のある活動を指します。

高齢者の社会参加には介護予防の効果があるだけではなく、高齢者自身が生活支援の担い手となることも期待できます。

「経済的自立」のために

内閣府の「令和4年版高齢者白書」では、公的年金・恩給を受給している高齢者世帯のおよそ半数が、公的年金・恩給が家計収入の全てであるという調査結果となっており、高齢者の所得はその他の世帯と比較して低いのが現状です。

高齢者の就労支援

平成25年(2013年)に「高齢者雇用安定法が改正され、65歳まで、もしくは雇用者と被雇用者が合意すれば65歳以降でも引き続いて就労できることになりました。

その他にも、国は高齢者の雇用について施策を立てています。

高齢者の就労支援

年齢にかかわらず働ける企業の拡大

定年年齢を65歳以上に引き上げた企業に対し、「65歳超雇用推進助成金」を支給しています。

また、企業の仕組みを変えることが必要な事業主に対して「高齢・障害・求職者雇用支援機構による事業主に対する相談、援助」を行っています。

高齢者が地域で働くことができる場所の拡大

「生涯現役促進地域連携事業」や「シルバー人材センター」など地域のニーズに合った高齢者雇用の仕組みを支援しています。

 高齢者の再就職支援の強化

一度退職しても再就職を希望する高齢者に対して、全国の主要なハローワークを活用して再就職支援を行っています。

 自立支援介護のメリット

自立支援介護のメリットは、具体的に同様なことがあるのでしょうか。

QOLの向上

QOLとはクオリティ・オブ・ライフ(Quality of Life)の略であり、「生活の質」のことです。

特に高齢者では「ひとりひとりが、その人らしく生きること」が幸福や満足につながると考えられており、自立支援介護によって日常生活の動作に制限なく、自分で行えることが多くなれば、活動の意欲が高まりQOLの向上につながると考えられます。

 介護負担の軽減

自立支援介護によって身体機能が向上し自分で行えることが増えれば、介護者の身体的・精神的負担も軽減します。

さらに介護に必要な備品が不要になれば、経済的な負担も軽減できる可能性があります。

例えば、非常にプライベートな行為である「排泄」が自力で可能となれば、本人の尊厳が回復されるだけではなく、介護者の体力的・精神的な負担は大きく軽減されます。

オムツの利用が不要となれば、介護をする側、される側共に大きなメリットとなります。

 介護負担の軽減

介護度の改善

自立支援介護によってADL(日常生活動作)の能力が向上し、介護度が改善されると、医療費や介護費の削減にもつながります。

 自立支援介護の注意点

自立支援介護では4つの基本ケアが設けられていますが、これらのケアを効果的に行うためにはいくつかの注意点があります。

〇数値基準について

水分ケア、食事ケア、排便ケア、運動ケアのそれぞれについて、明確な数値での基準が示されていますが、これらはあくまでも目安として設けられているものであり、これらの数値を達成することが目的ではなく、高齢者ひとりひとりに合った適切な内容や目標を持つことが重要です。

〇4つのケアのバランス

自立支援介護では「自分でできることを増やす」といった観点から、運動ケアが重要と捉えられがちです。

しかし運動ケアにばかり注目することで他のケアがおろそかになることや、身体的疲労からケガにつながる恐れもあります。

適切な運動ケアに加えて、必要な4つのケアをバランスよく行うことが大切です。

〇本人の意思を尊重する

どのような支援にも言えることですが、本人の希望や意思を尊重することが基本です。

本人が望まない支援を行っても効果的ではなく、良い結果にはつながりません。

自立支援介護においても、本人の望む生活を送るために必要な支援を検討し、本人が納得したうえで行うことが基本です。

 高齢者の「自立支援」まとめ

今回は高齢者の自立支援介護について考えてみました。

自立支援介護は本人の意思を尊重し、高齢者が自分だけでは困難なことを補い、自分でやる機会を奪うことがないように必要な支援を行うという介護スタイルです。

4つの基本ケアをバランスよく支援することでADLの維持・向上を目指し、示されている数値を目安に、ひとりひとりの心身の状態に適したケアを行うことが重要です。