介護ロボットが普及しない理由とは

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現在、介護業界では人手不足や介護者の身体的負担を軽減することを目的として、介護ロボットの導入が促進されています。

国はロボット技術を介護に利用するため、ロボットの開発にも、現場への導入にも補助金や助成金などの支援をしています。

しかし実際の介護現場では、介護ロボットはあまり活用されていないのが現状です。介護ロボットが介護現場に普及していないのはなぜでしょうか。

介護ロボットとは

介護ロボットというと、アンドロイドやヒューマノイドなどと呼ばれる、人間の形をしたロボットを想像するかもしれませんが、実際は介護者の動作や作業、要介助者の行動を代替したり補助したりする機械全般を指しています。

使用の目的によって種類はさまざまであり、その形や使用方法もいろいろなものがあります。

介護ロボットの定義

厚生労働省では介護ロボットについて、「ロボットとは、情報を感知(センサー系)、判断し(知能・制御系)、動作する(駆動系)という3つの要素技術を有する知能化した機械システムをいい、このロボット技術が応用され、利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器を介護ロボットと呼ぶ」と定義しています。

3つの要素技術

ロボットの3つの要素技術は、それぞれを人の機能に例えて説明することができます。

知能・制御系は人の頭脳と神経網にあたり、センサーからの情報を処理してコントロールを行うコンピューターシステムのことです。

駆動系とは人の筋肉や骨格にあたり、ロボットのモーターやアーム、移動機構、筐体など、ロボットの形状にも大きく影響する部分です。

センサー系は人の感覚器官にあたり、目や耳のように外界からの情報を得るものと、平衡感覚や痛覚など体内の情報を感知するものがあります。

ロボットの場合、必要な機能だけを選択したり、生物にはない検知機能を搭載することができます。

またセンサーの数は制限なく搭載できるため、人の目にあたるカメラを必要数、必要な場所に設計することができます。

介護ロボットの種類

介護ロボットの種類

介護ロボットの種類は生活の場面によっていろいろな用途のものがあり、形もさまざまです。

国は介護ロボットの開発や導入を支援しており、補助金や助成金のほかにも、民間企業や研究機構などには経済産業省が中心となって機器の開発支援を行い、介護現場には厚生労働省が中心となって介護現場でのモニター調査や実証実験などを行って結果を開発者にフィードバックするなど、より実用的な介護ロボットの開発を目指しています。

経済産業省と厚生労働省は、重点的に開発支援をする開発重点分野を以下のように定めています。

移乗支援

「移乗」とは、ベッドから車いす、車いすからトイレの便座などへ乗り移る動作を指します。

要介護者の体を抱えたり、支えて体の向きを変えるなどの動作が必要なため、介護者にも要介護者にも身体的に負担が大きい介助といえます。

大きく分けて、ロボット技術を用いて介護者の動作のパワーアシストを行う装着型のロボットと、ロボット技術を用いたリフトなど介護者による抱え上げ動作を代替する非装着型のロボットなどがあります。

移動支援

「移動」とは、室内や屋外で要介助者の居る場所を変えることを指します。

歩行を支援したり転倒を防止することが主な目的ですが、要介護者の行動範囲を広げ、QOLを向上できる可能性があります。

外出をサポートしたり荷物などを安全に運搬できる屋外用のロボットや、室内の移動やトイレ内での姿勢保持を補助するための屋内用のロボットがあります。

また立位や歩行のパワーアシストを行う、要介護者自身が身につけて使用する装着型のロボットもあります。

排泄支援

排泄支援のためのロボットは大きく分けて3種類があります。

1つは頻尿や残尿感、認知症などによってトイレが頻回な場合や尿意が伝えられない場合など、次の排泄を予測して通知することで、的確なタイミングでトイレに誘導するためのロボットです。

トイレに移動するための介助の回数を適切にすることで介護者の負担が軽減できるだけではなく、確実にトイレで排泄できることは要介護者の安心感と尊厳を守ることにもつながります。

2つ目はトイレ内での姿勢を保持したり、下衣の着脱など排泄の一連の動作を支援するロボットです。

3つ目は主にトイレに移動して排泄することが困難な要介護者を対象に、排せつ物の処理をするロボットです。

介護の負担を軽減するだけでなく、排泄物によるにおいや汚れを軽減することで、要介護者の生活環境を改善できるといえます。

見守り・コミュニケーション支援

センサーや外部通信機器で、要介護者がベッドから離床したり転倒したことを知らせるロボット技術や、AI技術を用いて人のように会話でコミュニケーションができるロボットなどがあります。

1人で複数人の介護をしなければならない介護施設や、家族と離れて暮らしていたり、日中ひとりきりになる在宅要介護者に役立ちます。

入浴支援

滑りやすく段差のある浴室で安全に入浴するため、浴槽に出入りするときの動作などを支援したり、座位や寝位のままで入浴するための入浴ロボットなどがあります。

介護業務支援

主に介護施設などで、見守り、移動支援、排泄支援、その他の介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それをもとに要介護者に必要な支援のために活用できるロボット機器です。

普及しない理由

これまでは介護ロボットの価格が普及しない主な理由と考えられてきました。

もちろん現在でも介護ロボットは高額なものも多くありますが、介護ロボットの導入には、補助金など国の支援もあり、購入にあたってのハードルは下がってきていると考えられます。

それでも介護ロボットが普及していない原因はどのようなことが考えられるでしょうか。

情報不足

そもそも、どのような介護ロボットがあるのか知らないことが挙げられます。

介護事業所などでは情報収集も比較的容易ですが、在宅で介護をしている人たちは、介護ロボットの存在を知らなかったり、一般家庭でも使用できる介護ロボットがあることについて情報が不足しているという現状があります。

設置や保管のスペース不足

使いやすく危険のない設置場所や保管スペースを確保する必要があります。

大型の介護ロボットは一般家庭での使用が困難なものが多く、介護施設であってもスペースの問題で導入をあきらめるケースがあります。

中には設置に工事が必要であったり、センサーなどを適した場所に複数個所設置が必要なものもあり、特に一般家庭での利用にはハードルとなることがあります。

効率が悪い

介護者が装着するタイプの介護ロボットは使用ごとに着脱が必要であったり、使用のために準備が必要な介護ロボットの場合には、介護業務の効率が低下する懸念があります。

介護ロボットの利用によって介護負担が少なくなり、有効性を感じていたとしても、作業効率が悪く実用的ではないこともあります。

また実際に介護ロボットを導入した場合の効果について導入前に判断することが難しいことも多く、介護ロボットの導入に踏み切れない理由のひとつとなっています。

使いこなせない

どんなに便利な機能であっても、操作方法が複雑であったり、介護ロボットを高齢者自身が操作をする場合などでは、適切に介護ロボットを使用できず危険が伴う可能性も考えられます。介護ロボットの誤作動や故障などトラブルを想定した場合のことや、メンテナンスについてなども検討材料のひとつとなります。

作る側と使う側のギャップ

これまで人が行ってきた介護をロボットが行うことに抵抗感を持つ人は、介護者にも要介護者にも多く、介護ロボットが普及しない理由のひとつといえます。

さらに技術開発者や実際にロボットを制作する人たちが、実際の介護現場でどのように介護ロボットが利用されるのか、また介護現場ではどのような介護ロボットが求められているのかを知らないことで、本来は有用な技術であっても非効率であったり、業務負担の軽減につながらないというケースがあります。

技術面の向上だけではなく、作る側と使う側のギャップを埋めることにも注力が必要といえます。

介護ロボットが普及しない理由とは

介護ロボットにはさまざまな用途のものがあり、国は介護ロボットの開発にも導入にも力を注ぎ支援を実施しています。

しかし介護ロボットについての情報はまだ少なく、介護ロボットには高額なものも多い上に、操作性や実用性などが原因で普及していないという実情もあります。

介護ロボットを開発・製作する側と利用する介護業界が協同していくことで介護ロボットの導入が進み、介護の業務負担軽減や生産性の向上につながることが期待されます。