介護業界でウェルビーイングの実現を目指すことの必要性

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従業員が健康で幸せに働くためのウェルビーイングな環境づくりは、企業の発展に不可欠です。

それは今、介護業界でも求められています。介護離職が深刻な問題となっているなか、従業員のウェルビーイングが問題解決の糸口になると期待できるためです。

しかし、ウェルビーイングな職場環境をどう実現すればよいかわからないといった方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、ウェルビーイングの概要をはじめとして、介護業界で必要な理由、実現に向けた取り組みについて解説します。

ウェルビーイング とは

近年、ウェルビーイングという言葉を耳にする機会が増えました。

介護の現場でウェルビーイングな環境を整えるためには、そもそもウェルビーイングがどのような考え方を示すのか知っておく必要があります。

ウェルビーイングの意味・定義

ウェルビーイング(well-being)を直訳すると、健康・幸福・福祉といった言葉になります。

この言葉が登場したのは、1946年に世界保健機関(WHO)が設立されたときにまで遡ります。

なお世界保健機関憲章では、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」と定義づけられています。

(参照:公益社団法人 日本WHO協会『健康の定義』)

一人ひとりが尊重され、満たされた状態を持続しながら、自己実現していくことが、ウェルビーイングの考え方です。

ウェルビーイングとウェルフェア

類似した言葉にウェルフェア(welfare)がありますが、こちらは福祉という意味です。

医療や福祉、介護の分野でよく用いられますが、福利厚生という意味を持つことも多くなっています。

ウェルフェアには、社会弱者を救済するといった、保護的な考え方が含まれているのが特徴です。

心身ともに健康かつ幸福な状態で、自己実現を目指すウェルビーイングとは意味合いが少し異なります。

ウェルビーイングは目的で、ウェルフェアはそのための手段のひとつだとされることもあります。

ウェルビーイングとSDGs

すべての人に健康と福祉を

ウェルビーイングと、世界の共通目標であるSDGsは、いずれも現代社会に不可欠なものであり、考えが共通している部分もあります。

SDGsの目標3では「すべての人に健康と福祉を」が掲げられており、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ことを目指します。

英語では「Good Health and Well-Being」との表記があり、まさにウェルビーイングと共通する部分があると考えられます。

(参照:外務省『持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取組』)

介護業界も含め、これからの企業の発展において、ウェルビーイングな環境づくりは必須といえます。

ウェルビーイングが求められる社会的背景

ウェルビーイングがいま求められているのは、社会の変化が理由として挙げられます。

ここでは、価値観の変化・働き方改革・コロナ禍といった、3つの社会的背景について解説します。

価値観の変化

人々の価値観が、「モノ」から「心の豊かさ」へと変化してきたことが理由として挙げられます。

効率や利益の追及による結果として、経済格差の拡大や地球環境の悪化などさまざまな問題が生じました。

これまでの「モノ」を重視する価値観では解決できない課題が多くなり、社会全体で「心の豊かさ」を求める動きが見られるようになりました。

働き方改革

2019年に政府は、一億総活躍社会の実現を掲げ、働き方改革関連法の施行を開始しました。

具体的な取り組みとしては、長時間労働の是正や、高齢者や女性の就労促進、雇用形態にかかわらない公正な待遇などが挙げられます。

一人ひとりが多様な働き方を選択でき、よりよい将来の展望を持てるようになることを目指している点が、ウェルビーイングの考え方につながります。

新型コロナウイルス感染拡大

ウェルビーイングがより重要視されるようになった背景として、コロナ禍における生活環境および価値観の変化があります。

テレワークが推進されるなか、改めて自分らしい働き方について考える人も増えました。ただその一方で、コミュニケーション不足やメンタルヘルスの問題も生じています。

そういったことからも、自己実現に加えて心身ともに健康で幸せであることの重要性が見直されたことが、理由のひとつです。

ウェルビーイングが介護業界にもたらすメリット

介護事業を展開するうえでも、ウェルビーイングな環境づくりが必要です。

ここでは、なぜ介護業界においてウェルビーイングが求められるのかについて、3つのメリットとして取り上げ解説します。

人材の確保

ウェルビーイングでは、一人ひとりの自己実現を目指します。

介護離職が問題視されているいま、人材の確保は介護業界において早急に解決すべき問題のひとつです。

ワークライフバランスや多様な働き方の実現が、介護業界でも浸透すれば、離職防止と同時に、優秀な人材の確保にもつながります。

一人ひとりが自分らしく働ける環境であることは、介護業界における人材不足の解決の糸口となるはずです。

健康経営の実現

経済産業省では「健康経営」を推奨しており、「企業の健康」への関心も高まっています。健康経営とは、従業員への健康投資が、企業の生産力向上や業績につながるといった考え方です。

人材不足に陥っている介護施設では、一人あたりの負担が大きくなっていることが少なくありません。

また優秀な人材が確保できずに、特定の従業員に業務量が偏っているケースも見られます。

このような環境下にある従業員の健康に配慮することは、介護施設の経営状態の健康にもつながります。

利用者にとっての利益

介護施設でウェルビーイングが実現し、従業員が健康で幸福な環境で働くことができていると、利用者にも利益をもたらします。

従業員が自己実現できる職場環境では、心身ともに余裕を持って仕事ができます。

すると、利用者に対してより手厚くきめ細やかなサービスの提供が可能です。

またウェルビーイングへの取組みで優秀な人材が確保できると、利用者やその家族一人ひとりのニーズを満たすことも期待できます。

介護施設でできるウェルビーイングへの取組み

介護施設でできるウェルビーイングへの取組み

介護施設などで働く人たちが、どれほど自分らしく働けているでしょうか。人手不足により激務となっているケースも多く、どうしても仕事がルーティン化してしまい、ただ日々の業務をこなしている人が多いのが実状です。

介護業界でもウェルビーイングの考え方を取り入れることで、介護職に携わる人たちが自己実現できる職場環境が構築できます。

労働環境の改善

介護業界において、長時間労働の是正は必須です。それに加えて、多様な働き方を認めることが望まれます。

個人に合わせた柔軟な働き方を実現するための方法としては、勤務形態や雇用形態を取り入れること、有給休暇や育児休暇が取得しやすい職場の雰囲気をつくることが挙げられます。

また、従業員の健康維持に努めることも重要です。そのためには、健康診断やストレスチェックの実施や産業医への相談窓口の設置、福利厚生の充実などが有効です。

良好な人間関係の構築

良好な人間関係が構築できている職場は、生産性が上がるとされています。また従業員の働きやすさに直結する部分です。

介護の現場では職員同士のコミュニケーションが重要でありながらも、そのための時間を十分に確保できていないといった課題があります。

より良いコミュニケーションが取れるような機会やスペースを作ることが求められます。コミュニケーションツールの導入も、ひとつの方法です。

経営ビジョンの共有

介護業界の今後を見据えた長期的なビジョンや、介護施設の存在意義など、経営の指針を共有することも重要です。

「誰のために?」「何のために?」といった視点がなければ、仕事へのモチベーションを維持することは困難です。

多様な働き方や待遇改善だけでなく、やりがいを見出せる環境づくりが欠かせません。そのためには、経営ビジョンの共有が必要です。

ウェルビーイングの実現で、利用者にも健康と幸福を

ウェルビーイングとは、個人が心身ともに健康かつ幸福で、社会的に満たされた状態です。

そして、それが広く浸透することで、企業や業界、社会全体のウェルビーイングにつながります。

介護業界の慢性的な人手不足や、介護離職の問題などを解決する糸口として、ウェルビーイングの実現があると考えられます。

介護職に携わる人たちがやりがいを見出し、自己実現できるような職場環境は、ひいては利用者にも利益をもたらします。