ミドルリーダーの介護業界における役割とは

2022/12/19

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超高齢社会が加速していく日本においては、高齢者の増加に伴い介護職員も増員する必要があります。

都道府県の試算によると、2040年には2019年度と比較して約69万人の介護職員を増員する必要があると推計されています。

しかし介護業界は常に人材不足の状態であるといわれており、人材が育ちにくい現状があります。人材育成や生産性の向上など、介護業界の発展にも欠かせない、ミドルリーダーの役割について考えてみます。

ミドルリーダーとは

「ミドルリーダー」は幼稚園や学校などの教育現場で使われることが多い言葉ですが、一般企業などでもいろいろな職種で使われるようになっているようです。

その言葉から中堅職員が担うイメージがありますが、中堅職員と呼ばれる層は幅広く、経験年数や年齢などは職種や業界によって考え方は異なるようです。

介護業界では1~3年目を「新人介護職員」、4~9年目を「中堅介護職員」、10年以上を「ベテラン介護職員」の目安と考え、老人福祉施設協議会などでは、それぞれの時期に応じた研修も実施されています。

介護業界におけるミドルリーダーの役割

介護業界のミドルリーダーに求められる役割はどのようなものでしょうか。

具体的な業務の内容は、毎日の介護スタッフの業務を調整して指示を出したり、委員会活動や会議の参加、管理者や他職種との連絡・調整、記録や書類の作成・管理など多岐にわたりますが、大きく分けて3つと考えることができます。

介護職員のマネジメント

「マネジメント」とは組織が成果を出すための機能や仕組みのことです。

介護現場においては職員ひとりひとりが介護の仕事を通じて自己実現を果たし、その結果利用者様が満足されて、組織の目的も達成できることが理想的な形と考えられます。

介護職員は不規則なシフト勤務であることも多く、体調やメンタルを良好に維持することが大変な仕事でもあります。

介護職員の勤務調整や職場環境を整えること、職員同士の関係などに気を配ることなどもミドルリーダーの仕事といえます。

介護職員の指導、育成

介護現場における人材育成の多くはOJTによって行われています。

OJTは「On-the-Job Training」の略で、職場での実践を通じて業務の知識や技術を身につける育成方法のことです。

新入職員が介護現場で受ける教育のほとんどがOJTであり、業務を離れての研修や座学も、OJTで実践することで効果的に身につきます。

介護業界での人材育成においては主要となる手法のひとつであり、ミドルリーダーの役割のひとつです。指導される側の職員にとっては、日々の仕事を通して実践的に学ぶことができることがメリットですが、指導するミドルリーダーの能力によっては知識や技術に差が出てしまったり、成果につながらない場合があります。

そのためミドルリーダー自身の介護スキルを高めることも必要です。

他職種や他部署との連携

現在の介護業界は非常に多くの専門職がかかわっています。

ミドルリーダーは介護職員間の連携はもちろん、他職種や管理者との連絡や協力、場合によっては外部の病院や施設、ご家族との連携が必要なこともあります。

そのため介護の知識だけではなく、医療や福祉にかかわる広い分野について、最低限の知識は身につけておく必要があります。

またいろいろな立場の人と良好な関係を作るために、コミュニケーション能力も重要です。

ミドルリーダーの課題

介護現場に重要な役割を持つミドルリーダーですが、ミドルリーダーを育成したり、効果的に活用できていない現状があります。

適した人材の不足

介護職員は平均勤続年数が約7年という調査結果があることからもわかるように、介護業界はひとつの職場で長く働く人が少ない傾向にあり、中堅職員の退職によってミドルリーダーに適した人材が不足していることがあります。

また令和元年時点の介護職員の平均年齢は42.0歳ということから考えると、中堅職員といっても職歴や年齢はまちまちであり、20代で中堅の職員もいれば40歳を過ぎた新人職員がいる可能性もあり、年齢や勤続年数を参考にミドルリーダーを選定することが適当でない場合も考えられます。

勤続年数の長い20代の職員が、親のような年代の職員に指導や指示をしなくてはならないようなケースでは、業務以外の部分にも配慮が必要なこともあります。

業務過多

介護職員として通常の業務を行いながらミドルリーダーとしての仕事をすることで、業務量が過剰となる傾向があります。特に介護職員が不足している職場では、日常の業務だけでも1人あたりの負担が大きくなっている可能性があり、ミドルリーダーとしての役割を十分に発揮できないケースもあります。

ミドルリーダーを複数人配置して役割を分担したり、ミドルリーダーの補佐的な立場の職員を置くなど、ミドルリーダーの業務負担を軽減する工夫が必要です。

学習機会が少ない

介護職員は日常の業務から離れて外部の研修を受けることが難しい環境の職場も多く、ミドルリーダー自身が学習する機会が少ないという現状があります。

さらに近年ではコロナ禍における対面での研修会自体が減少しています。

ネット環境が整備された職場では、オンライン研修などの利用で業務への支障は少なく知識を得ることは可能となりましたが、同じような立場の職員同士が横のつながりを作る機会が減少しており、他の職場の情報を聞いたり、悩みを共有する場所が少なくなっています。

学習機会が少ない

ミドルリーダーに必要な能力

ミドルリーダーの業務内容は多岐にわたるので、介護スキルはもちろん、マネジメント能力やコミュニケーション能力なども必要となります。

しかし最初から全ての面で優れている人は稀有なので、ミドルリーダーも「育てる」意識が必要です。どのようなミドルリーダーが必要なのかを経営側が明確にし、適した人材を選んで教育していくことで、効率よくミドルリーダーを育成できるといえます。

介護スキル

ミドルリーダーは指導的な立場でもあるため、ミドルリーダー自身が介護スキルを高めていくことも必要です。

外部の研修会に参加したり、職場内での勉強会の他、近隣の同業者間で情報交換の機会を設けることも有効です。

さらにミドルリーダー自身にとってもOJTは有効であり、新人職員の育成をしていくことでミドルリーダー自身の介護スキルも高めていくことができます。

日々の業務のひとつひとつから学習していこうという本人の心がけも必要です。

コミュニケーション能力

外交的で、臆さずに人と話すことができるからといってコミュニケーション能力が高いとは限りません。コミュニケーションは双方向のものであり、相手に伝えることだけでなく、相手からの情報を正確に理解できることも必要です。

コミュニケーションは言語だけではなく、聞く力や相手の様子から意図を想像する力などによっても円滑になり、実際にいろいろな人とかかわることで磨かれていくものです。

ミドルリーダーが積極的にいろいろな人とかかわりを持つように心がけることはもちろん必要ですが、他職種や管理者も同じように身につけるべき能力といえます。

リーダーシップとマネジメント能力

リーダーシップとマネジメントは似たような使われ方をすることがありますが、本来は別の役割を持ちます。

リーダーシップは目標に向かって組織をけん引するための能力、マネジメント能力は目標を達成するための仕組みを作り上げる能力のことを指し、ミドルリーダーにはその両方が求められることになります。

目標は大きいものではなく、日々の業務の中にある小さな目標や課題であってもそれをひとつひとつ明確にし、達成したり解決していくための方法や仕組みを考え、介護職員や他職種と共同できるように先導していくことが必要です。

介護業界のミドルリーダーとは

超高齢社会が加速している日本では、介護職員を増員する必要があるにもかかわらず、常に人手不足といわれています。

新人介護職員の育成や職場環境の整備、他職種との連携など、介護業界におけるミドルリーダーには多くの役割が求められます。

ミドルリーダーの役割を明確にして育成する環境を整え、組織の目標を達成して行くことは、介護業界の発展にもつながります。