高齢者の嚥下(えんげ)困難に配慮した食事の工夫

2025/06/30

高齢者になると加齢により体の機能が衰えていくため、一人ひとりに合った食事形態を提供することが大切です。高齢者にとって、食事は日々の楽しみであり、生きがいのひとつでもあります。この記事では、嚥下困難の際、安全に食事を楽しむための工夫や注意点、訓練とリハビリ方法、家族や介護者が知っておくべきことについてお伝えします。

高齢者の嚥下困難とは?

食べ物を口の中で飲み込みやすい大きさまで噛み砕き、食道から胃へ送り込むことを嚥下(えんげ)といいます。嚥下困難とは、食事の際にむせることが増え、食べ物が飲み込みにくくなることで、嚥下障害とも呼ばれています。

出典1:気管食道科に関連する疾患・症状(日本気管食道科学会)

高齢者の嚥下困難の原因

高齢者にみられる嚥下困難の主な原因は、「加齢によるもの」と「病気が原因となるもの」があります。

加齢による筋力低下

加齢により、舌やのどの筋力が低下し、食べ物を飲み込む力も弱くなります。高齢になり、骨格筋量の減少や筋力低下が進み「サルコペニア」になると、さらに誤嚥(ごえん)が目立つようになるため注意が必要です。誤嚥とは、食事やだ液などが、誤って気管に入る状態を指します。高齢者の誤嚥は、肺炎の原因となる場合があります。

出典2:誤嚥とは(日本気管食道科学会)

病気が原因となる嚥下困難

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害のほか、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(などの変性疾患も原因に挙げられます。脳の機能が低下すると、体の筋肉への指令が伝わりにくくなり、食べ物を咀嚼し、飲み込むための力も低下します。

嚥下困難の主な症状

高齢者に次のような症状がみられた場合、嚥下困難の可能性があります。

  • 以前よりも食事に時間がかかる
  • 食べる量が少なくなり体重が減った
  • 食べ物を飲み込みにくい
  • 食事や水分を摂るとむせる
  • 食事のあと痰が絡んだようなかすれた声になる

 

このほか、食べ物を飲み込んだあとに咳が出たり、痰が絡んだりすることもあります。ただし、高齢者は年齢とともに咳をする力が弱まります。本人やまわりが気づかないうちに、誤嚥性肺炎になる場合もあるため注意しましょう。

嚥下困難は低栄養や脱水症状をおこす原因にもなるため、本人の状態に合った食事を調理する工夫が必要となります。

出典3:嚥下でみられる症状(健康長寿ネット)

嚥下困難を和らげる食事の工夫

高齢者の嚥下が難しい場合、形態に合わせて食事を工夫することが大切です。食事形態には、「常食」「軟飯(菜)食」「きざみ食」「ミキサー食」「流動食」「ソフト食」などがあります。また、嚥下困難が進むと味覚の変化や嚙む力、飲み込む力が弱くなるため、使う食材に注意しましょう。

出典4:常食から流動食の定義(健康長寿ネット)

高齢者が食べづらい食材

  • 水分が少なく食感がパサパサしている(パン、ゆで卵、ひき肉など)
  • 粘り気があり、口やのどに張りつきやすいもの(もち、のり、わかめ、ウエハースなど)
  • 食感がかたいもの(ごぼう・れんこんなど繊維の多い野菜、せんべい)
  • 弾力があるもの・噛み切りにくいもの(いか、たこ、かまぼこ、貝類、漬物など)
  • のどに詰まりやすいもの(ピーナッツ、大豆など)
  • 表面が粉っぽいもの(和菓子など)
  • 水分が出る食材(豆腐、果物)
  • 水やお茶、みそ汁などの液体
  • 酸味のあるもの(酢の物、柑橘類)

 

食べやすい食材

  • ゼリーやプリン、卵豆腐などやわらかいもの
  • カレーやシチュー、おかゆなど、適度なとろみがあるもの
  • めん類(うどん、そうめん)など、口の中でバラバラになりにくいもの

 

食事を食べやすくする工夫

誤嚥しやすくなり食事への不安が高まると、食事への意欲が低下する場合もあります。食べやすいように工夫することが大切です。

とろみをつけ、のどごしがよくなるようにする

液体は口からこぼれやすいほか誤嚥もしやすいため、とろみをつけるとのどごしがよくなります。とろみがつくと口の中の食べ物が飲み込みやすくなり、誤嚥防止にもつながるでしょう。

たとえば、煮魚をあんかけにしたり、汁物にとろみをつけたりすると食べやすくなります。とろみをつけるものには、市販のとろみ剤、片栗粉やコーンスターチ、ゼリー用のゼラチンなどがあります。片栗粉やコーンスターチは、加熱することでとろみがつきますが、市販のとろみ剤は温度に関係なく使用できるのが特徴です。

粘りのある食材を使う

納豆やオクラ、モロヘイヤ、山芋など粘り気がある食材を混ぜることで、とろみがついて食べやすくなります。

調味料をうまく利用する

味付けとしてマヨネーズやドレッシングなどの油分を含む調味料は、食材を飲み込みやすくなるためおすすめです。食感がパサパサした食材には、小麦粉、卵、豆腐などをつなぎとして使うと、まとまりやすくなります。

食べやすくするためには?調理のポイント

食材を調理する際は、次の点に注意しましょう。

  • 肉や野菜は繊維質を切るように調理する
  • 食材がやわらかくなるように時間をかけて煮る・蒸す・つぶす
  • むせる要因となるため、酸味や辛味は控えめにする

 

調理方法ひと手間かけると、安全に食事を楽しめます。食材をやわらかく調理することで噛む力を助け、口の中で食べ物がまとまりやすくなります。

出典5:高齢者の食事のポイント(健康長寿ネット)

おすすめの調理器具

さまざまな調理器具を利用することで、調理にかかる手間を短縮できます。

  • 圧力鍋
  • ミキサー
  • ハンドミキサー
  • フードプロセッサー
  • すり鉢
  • 裏ごし器

 

圧力鍋を使用すれば、硬い食材も短時間でやわらかくなります。ミキサーやフードプロセッサーは、刻みやペースト状にする際に便利です。すり鉢は食材をつぶすときに使うとよいでしょう。裏ごし器を使えば、つぶした食材がなめらかな食感になります。

おいしく食べるための工夫

メニューに適した温度で

温かいものは温かく、冷たいものは冷たくすると、味わいの変化も楽しめます。五感を刺激することで、気持ちもリフレッシュし、食欲がわくきっかけになります。

見た目をよくする

食材を全部混ぜて調理してしまうと、どのような食材が使われているのか判別がつかないばかりか、見た目があまりよくありません。食事を作る際は食材ごとに刻むようにし、見た目を整えることが大切です。味覚だけではなく視覚、食感のバリエーションがあると、毎日の食事が楽しくなるほか、「食べたい」という意欲につながります。

完全調理済み冷凍パックの介護食を利用する

毎日の食事で栄養バランスに考慮しつつ、本人の形態に合うメニューを作るのは手間もかかり大変です。冷凍パックの介護食を利用してみるのもよいでしょう。

完全調理済み冷凍パックの介護食を選ぶメリットは以下の4つがあります。

  • 栄養バランスよく摂れる
  • 調理する手間が省ける
  • 豊富なメニューで献立のマンネリ化を防ぐ
  • 利用者に提供するまでにかかるコストの削減になる

 

行動範囲も狭まることが増える高齢者にとって、食事は健康維持だけではなく、楽しみや生きがいの一つでもあります。冷凍パックの介護食を利用すれば、材料費や調理の手間を省けるほか、人員コストも減らせるでしょう。

「こだわりシェフ」では、おいしさや見た目にもこだわった介護食を提供しています。一人ひとりの食事形態に配慮したメニューを選べるためおすすめです。

高齢者の食事における注意点

嚥下困難がある場合は、以下の8つに注意し、食事を進めるとスムーズです。機能維持を保つために、可能な場合はなるべく椅子に座り自分で食べてもらいましょう。

  1. 食事の前に、手、口、のどがきれいかチェックしましょう。うがいや歯磨きなどで口の中を清潔にしておきます。
  2. ながら食べを防ぐためテレビを消し、食事に集中できる環境を整えます。
  3. 食べる前に準備体操をします。
  4. 食べ慣れた姿勢で食事をいただきます。むせる、口からこぼす、飲み込めない、などがある場合、リクライニング椅子などを利用しましょう。椅子の角度は30〜60度位で調整し、仰臥位(ぎょうがい)で食べるようにします。必ず頸部に枕をあてて、前屈させておくことが大切です。
  5. 食べやすいものからはじめ、良く噛んでゆっくり味わいながら食べましょう。水分で口の中がうるおっていると、嚥下がスムーズになります。
  6. 一日のリズムを保つために、食事の時間を決めます。少量しか食べられない場合、間食の時間を利用し、水分やおやつで補うようにしましょう。
  7. 食後は歯を磨いて口をゆすぎ、口腔内の清潔を保ちます。食べ物が残っていると、窒息や誤嚥性肺炎の原因になります。
  8. 食事の逆流を防止するために、食後1〜2時間は上体を起こしておきましょう。

 

出典6:ケア・対処・訓練法(日医工株式会社)

 

嚥下訓練とリハビリ方法

食べるために使う筋肉は口まわりやのどの筋肉だけではなく、首や肩、腕などの筋肉も関係しているのをご存知でしょうか。嚥下訓練とリハビリを続けることで、誤嚥予防になります。

「嚥下体操」をおこない筋肉を動かすことで、食べるための一連の動作がスムーズになります。無理のない範囲で毎日継続しましょう。

嚥下体操は食事前に行うのが効果的です。食事の前に口を動かすことでだ液が分泌されやすくなり、食材を飲み込みやすくなります。このほか「テレビを見ながら」「お風呂に入りながら」リラックスしておこなうのもおすすめです。

食事前の嚥下体操には、主に次の5つがあります。リラックスした姿勢で始めてみましょう。

呼吸体操

鼻から息を吸い、口からゆっくり吐き出す動作を数回継続します。お腹に手を当てて、お腹が膨れ、へこむのを感じながらおこないます。呼吸することで気持ちがリラックスするでしょう。

首の体操

①ゆっくりと首を左右に1回ずつ回します。➁首を左右にゆっくりと倒します。首にも嚥下に関わる筋肉があるため、ほぐしていきましょう。

肩の体操

①息を吸いながら肩を上げ、息を吐きながら下げます。➁次に両手を上げ、軽く背伸びします。

口の体操

①口を膨らませたりすぼめたりしましょう。➁舌で左右の口角に触れます。③舌を出したり引いたりします。しっかり嚙んで、飲み込んだりするための訓練です。

パタカラ体操

「パ、タ、カ、ラ」とゆっくり大きな声で発音します。発声訓練で舌や口の筋肉を動かします。

一連の動作を数回ずつおこないましょう。最後に呼吸体操で締めくくり、食事に入ります。

このほか、額に手を押し当てながらおへそをのぞく姿勢になる「嚥下おでこ体操」や、ペットボトルにストローをさし、息でぶくぶくと吹く「ペットボトルドローイング」など、さまざまな体操があります。

出典7:“藤島式”嚥下体操セット(浜松市リハビリテーション病院)

 家族や介護者が知っておくべきこと

家族や介護者が細やかに気配りすることで、誤嚥予防になります。嚥下困難の高齢者が安全に食事を楽しむために、次の点に気をつけましょう。

  • 食事介助の際は声掛けをしながら進め、リラックスした雰囲気を心がける。
  • 正しい姿勢になるようにし、首を安定させる。
  • 利用者と目線が同じになるような高さの椅子で、横に座り対応する。
  • 本人の嗜好を考慮したメニューを選ぶ。
  • 食事の30分前に水分を摂り、だ液の分泌を促す。
  • 一口の量は一人ひとり異なるため、様子を見ながら対応する。
  • よく嚙んでゆっくり食べるようにする。
  • 必ず飲み込んだことを確認する。本人のペースで進め、食べるのをせかさない。
  • 食事は適温で提供し、おいしさを味わえるよう心がける。
  • 食事に時間がかかり過ぎると疲れるため、30~40分程度で切り上げる。
  • 食前、食後の口腔ケアを心がけ、誤嚥性肺炎のリスクを減らす。
  • 嚥下状態の変化に注意を向け、必要な場合は専門家と連携する。

 

出典8:ケア・対処・訓練法(日医工株式会社)

食事環境は、本人がリラックスできる環境を整えることが最も大切です。賑やかな場所を好む場合もあれば、静かな環境を望む方もいらっしゃいます。

利用者と積極的にコミュニケーションを取り、本人が望む環境を整えましょう。

まとめ:高齢者の嚥下困難へのアプローチ

高齢者の嚥下困難には「加齢によるもの」と「病気が原因となるもの」の2つがあります。安全に食事を楽しむためには、それぞれの食事形態に合った食材を選び、調理方法を工夫することが大切です。とはいえ栄養バランスを考慮したメニューを毎日考えるのは大変です。を利用してみるのもよいでしょう。

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