利用者のQOLを高める!食事介助の基本を徹底解説

2024/02/22

介護現場においても、楽しい食事の時間は重要な要素です。食事を心から楽しめると、QOL(※)の向上につながります。

※Quality of lifeの略。「生活の質」「生命の質」などと訳され、生きるための活力や生きがい、満足度などの意味が含まれることば。

楽しい食事の時間を実現するには、正しく安全な食事介助が欠かせません。

介護施設の管理者や介護従事者のなかには、「食事介助の基本を知りたい」「どうすれば利用者が食事を楽しんでくれるのか」などとお考えの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、食事介助の大切さをはじめ、食事介助の基本および注意点について解説します。

高齢者は食事をとるのも大変!高齢化により低下する4つの力

高齢化に伴って食事能力が低下すると、心身ともにさまざまな弊害が起こる原因となります。例えば、誤嚥を引き金とする誤嚥性肺炎など、最悪の場合には命に関わることもあります。

食事能力が低下する原因だと考えられる4つの要素を紹介します。

①嚥下(えんげ)力

1つ目は嚥下力です。嚥下とは、食べ物を飲み込んで胃に送ることです。

高齢化により唾液の分泌量が減ると、のどの周りの筋肉が衰え、嚥下力が低下します。嚥下力が低下すると、水分量の少ない食べ物や、水やお茶など喉越しがさらっとした液体は誤嚥につながりやすくなるため注意が必要です。

②咀嚼(そしゃく)力

2つ目は咀嚼力です。高齢化によりあごの筋肉が衰えたり、口腔状態が悪くなったりすることで噛む力が低下します。

硬いものが食べづらくなり、柔らかいものばかり好んで食べてしまうことによって、噛む力が衰えます。また、特定の食べ物ばかり摂取することで栄養バランスが悪くなることも懸念されます。

③消化能力

3つ目は消化能力です。高齢になると、胃腸の消化液や唾液が分泌されにくくなります。すると消化器官の運動機能が低下し、消化能力の低下を引き起こします。

消化能力が低下すると、食欲減退につながります。また食べ物が長時間消化されずに胃に留まることで、すぐに胃もたれを感じやすくなることもあります。そのほか、便秘や下痢の原因になりやすいことも注意点です。

④食欲

4つ目は食欲です。食欲がわくことも、人が心身ともに健康に生きていくうえで必要な力の一つです。

高齢化で身体機能が衰え、それに伴い活動量が減ることで食欲が低下しやすくなります。また、味覚や嗅覚が鈍くなることも食欲減退の一因です。

食欲が低下して食事量が減ると、必要なエネルギーや栄養が不足し、病気や怪我の回復に多くの時間を要します。

また食事の楽しみがなくなることもマイナス面として挙げられます。

食事介助をするなら知っておきたい!高齢者の食事の特徴

食事介助をするなら知っておきたい!高齢者の食事の特徴

高齢者は、さまざまな能力が低下し、若いころと同じように食事をとることが難しくなります。利用者に、安全かつ楽しい食事の時間を過ごしてもらうには、適切な食事介助が求められます。

そのためにも、高齢者の食事の特徴について理解しておくことが大切です。

やわらかい食べ物を好む

咀嚼力がしているほか、入れ歯を使っていることもあるため、あまり噛む必要がないやわらかい食材を好むようになります。

嚥下力の低下も、硬い食材を避けるようになる原因のひとつです。

乾燥したものを飲み込みづらくなる

高齢者は唾液の分泌量が減り、のど周辺の筋力が衰えます。

そのため、パンやサツマイモなどのパサパサした食材が飲み込みづらくなります。水気の多い食材やとろみをつけた料理などが食べやすい傾向にあります。

のどの渇きに気づかない

加齢とともに、のどの渇きを感じにくくなります。

食事介助のときに限らず、利用者自身がほしがるタイミングだけ水分をあげていたのでは不足してしまいます。周囲の人の声かけによってこまめな水分補給を促すことが大切です。

濃い味つけを好むようになる

喉の渇きに対して鈍くなるように、嗅覚や味覚も感じにくくなります。そのため、若い頃よりも濃い味付けを好むようになります。塩分過多にならないよう注意が必要です。

食事介助で気をつけたい!食事をとるときの正しい姿勢

食事介助で気をつけたい!食事をとるときの正しい姿勢

食事介助にあたって注意が必要なのが、誤嚥のリスク。誤嚥性肺炎を引き起こす要因ともなるので、食事介助の際は最新の注意をはらってサポートしましょう。

適切に介助することは、楽しい食事の時間を過ごすことにもつながります。

誤嚥リスクを下げるためには、正しい姿勢を保つことが基本です。

ここでは、食事をするときの3つのケースにわけて解説します。

ケース①テーブルと椅子で食事する場合

自力で座る姿勢を保てる利用者の場合には、なるべく自分で椅子あるいは車椅子に座って食事をしてもらうようにすることが大切です。

今できることをいかに維持できるかということも、介護における基本の考え方といえます。

▼テーブルと椅子で食事するときのポイント
・椅子の高さは、深く腰かけた状態で足が床にしっかりとつくこと
・膝が90度に曲がるくらいの位置を保つ
・テーブルの高さは、軽い前傾姿勢の状態で腕を乗せて肘が90度に曲がる程度

軽く前傾姿勢を保てることが理想なので、背中や頭の後ろなどにクッションを入れて支えると転倒防止に有効です。

ケース②リクライニング車椅子で食事する

リクライニング車椅子を使用している利用者の場合、本人と相談しながら、そのときのコンディションに合わせてリクライニングの角度を決めましょう。

▼リクライニング車椅子で食事するときのポイント
・リクライニングの角度は45〜80度くらいに保つ
・ティルト機能がある場合は、先にティルトで角度をつけたうえで、リクライニングの角度をつける

ケース③ベッドの上で食事する

施設であれば食堂など、食事は決められた食事の場所でとるのが好ましいのですが、利用者の状態によってはベッドの上で食事するケースもあります。

▼ベッドの上で食事するときのポイント
・リクライニングの角度は45〜80度くらいに保てるようにする
・一旦ベッドをフラットにしてから、リクライニングの折れ曲がる部分がお尻となるように身体を移動させ、足側も少し上げてからリクライニングの角度を調整する
・膝の下にクッションを挟むなどして、膝を軽く曲げられるようにする

食事介助を始める前の準備

介助者としては、まず利用者の安心安全な食事の時間を確保することが大切です。

ただし、食事の基本は楽しむこと。リラックスしながらおいしく食べてもらえる環境づくりを目指しましょう。

ここでは、食事を始める前の準備を解説します。

排泄を済ませる

食事に集中してもらうためにも、まず排泄を済ませます。

途中でトイレに行きたいとなると、食事を中断しなければならないほか、部屋のポータブルトイレを使用する場合、部屋の中に排泄物の匂いが残ってしまう可能性があります。

もよおしていない場合でも、食事前にはトイレという習慣を付けておくとよいでしょう。

食事に集中できる環境づくり

テレビを消すなど、食事に集中できる環境を整えましょう。部屋が静かすぎて緊張してしまう場合には、リラックスできるような音楽をかけるのもおすすめです。

口の中を清潔にしておく

歯磨きやうがいなどをして、口の中を清潔にしたうえで食事を始めることも基本です。

特に嚥下障害がある場合、口の中に汚れが残っている状態で誤嚥すると、細菌が気管に入って誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まってしまいます。

また、口の中をきれいにしておくと、味を感じやすくなったり唾液の分泌が活性化したりする効果も期待できます。

唾液の分泌を促すトレーニングを行う

食事介助の一環として、嚥下体操や口腔体操も行うとよいでしょう。

食べ物をのどに詰まらせたりむせたりする機会が多いと、食事への苦手意識につながります。少しでもスムーズな食事ができるようサポートすることがポイントです。

手を洗う

利用者にあわせて手を洗ったり拭いたりして、手を清潔な状態にしましょう。風邪や感染症予防のために、食事前の手洗い等は不可欠です。

安全で楽な姿勢を確保する

前項で説明したとおり、食事の際の姿勢は重要です。食事のスタイルに応じて、正しい姿勢をとれるようにしましょう。

ポイントは、お腹や腰に力の入りやすい姿勢にすることや、滑り落ちないようにすること、誤嚥しない角度にすることです。

食事介助をするときのポイント・注意点

食事中のポイントや注意点は、利用者の視点に立って食事介助を行うことです。

十分な水分補給を行う

飲み込みをスムーズにするために、食事前にはお茶や水などで口の中を潤しておきます。

食事についても、水分の多いものをはじめにとり、主食⇒副食⇒水分といったように交互に摂取してもらうこともポイントです。

声掛けとともに、献立の説明をする

「おいしいですね」「〇〇さんの好きなメニューですね」「これは○○のような味ですよ」などの声かけとともに、献立を詳しく説明してあげることが大切です。

会話をしながら楽しく食事してもらうこと、食欲を刺激することが目的となります。

利用者と同じ目線になるように隣りに座る

立ったまま食事介助すると、利用者が威圧感を感じやすくなります。

また介助者のほうが高い位置にいると、利用者のあごが上がりやすくなり誤嚥につながりやすくなります。

利用者とはできるだけ同じ目線になるように、隣りかななめ前に座ることがポイントです。

食事を急かさないようにする

食事のペースは、介助者ではなく利用者に合わせて行うようにしましょう。

先に食べていたものをきちんと飲み込んだかどうかを十分確認してから、次の食事を口に運ぶことがポイントです。

食事のあとのケアも忘れずに!

食事のあとは、食事量・水分量を確認して、口腔ケアを行う必要があります。また、必要に応じて服薬介助を行います。

なお、逆流防止のため、食後しばらくの間は横にならないように促しましょう。

正しい食事介助によって、食事を楽しい時間にしましょう

食事介助の方法や介助者の接し方によって、利用者にとって食事は楽しい時間になります。ただし、適切な食事介助ができなければ苦痛な時間になってしまうことも。

それだけ介助者の責任は重大ですが、食事介助の基本を押さえていれば問題ありません。

正しい知識を持って介助に携わること、そして何より利用者のことを考えてサポートすることが大切です。楽しい食事を提供することは、利用者のQOLにつながります。