介護現場におけるリスクマネジメントとは?目的と方法を徹底解説

2024/02/22

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企業で不可欠とされるリスクマネジメントは、介護現場においても必要なものです。

要介護者が増加する一方で介護従事者は不足している今、介護事故が生じやすい環境と考えられます。

介護現場では、リスク防止の対策を講じるだけでなく、万が一事故が発生した場合の対応についても知っておく必要があります。

介護施設を経営している方や介護事業に携わる方のなかには、「介護現場で必要なリスクマネジメントを知りたい」「どんなリスクが考えられるの?」などとお考えの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、介護現場におけるリスクマネジメントの必要性や介護事故の事例、求められる対策について解説します。

介護現場におけるリスクマネジメントとは

“リスクマネジメント”とは、発生する可能性がある事故やトラブルを”必ず起こるもの”として認識し、管理することを指します。

いわゆる”ヒヤリハット”や過去事例を分析し対策することが一般的な方法です。これにより、事故やトラブルを未然に防ぎます。

ただし、不測の事態が生じるケースが多い介護現場において、事故を完全に防ぐことは不可能だと考えられます。そのため、介護事故が発生した際の対処法についても準備することが重要です。

介護現場でリスクマネジメントが必要な理由

介護現場でリスクマネジメントが必要な理由

介護現場におけるリスクマネジメントの主な目的は、以下のとおりです。
・利用者の安全を守る
・職員を守る
・サービスの質を高める

加齢に伴い身体機能が低下する高齢者は、周囲がいくら気遣っていてもケガなどをしやすい状態です。利用者の安全、命を守るためにリスクマネジメントは不可欠といえます。

 

また、「介護事故を起こすかもしれない」、最悪の場合には「自分のせいで事故が起こってしまった」となれば介護職員の精神的負担が大きくなります。

職員自身が巻き込まれてケガをしてしまう可能性もあります。そういった事態を防ぎ、職員を守るためにも対策が必要です。

このように利用者と職員を守り、安心安全に利用できる環境を整備することは、サービスの質向上につながります。利用者増や、人材確保といった効果が期待できます。

介護現場で取り組むべき3つのリスクマネジメント

介護現場においてはどうリスクマネジメントへ取り組むべきか、ここでは基本の3ステップを解説します。

①介護現場のリスクを特定する

まずは、介護現場で起きた過去の事例や、ヒヤリハットの報告書などを収集します。そしてその原因やよくあるパターンについて分析を行い、介護現場で起こり得るリスクを特定します。

②リスクへの具体策を検討する

次に、特定した事例についてどのような対策が求められるか検討していきます。

事例ごとに考えること、現場に即した方法を講じることがポイントです。また、人的災害だけでなく自然災害への対策も必要です。

③職員へ周知する

リスクマネジメントは、事業所全体で取り組むことが不可欠です。リスクへの具体策をもとにマニュアルを作成し、職員へ周知する必要があります。マニュアル化するだけでなく、研修を行うことも重要です。

リスクマネジメントの実施
・介護を行う際のマニュアル作成
・研修の実施
・環境面への対策(バリアフリー化など)
・利用者の状況・状態に関する情報共有
・道具の導入(福祉用具など)

介護事故の事例

介護事故の事例

介護現場におけるリスクの特定と対策の重要性について上述しましたが、ここではよくある介護事故の事例とその原因・対策を紹介します。

転倒事故

【原因】
椅子から転倒した⇒高さがあわないいすを使っていた
・杖で歩行中に転倒した⇒段差でバランスを崩した など

【対策】
高さの合った椅子を用意する
・段差をなくす
・手すりを設置する
・歩行リハビリを行う
・介助の方法を見直す など

転落事故

【原因】
寝返りをしてベッドから転落した⇒ベッドに柵がついていなかった、介助者が目を離した
・移乗で車いすから転落した⇒車いすのブレーキの調子が悪く停まり方が不安定だった など

【対策】
ベッドに柵を取り付ける
・移乗するときの声かけを徹底する
・福祉用具を安全性の高いものに変更する など

誤嚥事故

【原因】
利用者に合わない食事形態だった(食事の内容、食材の大きさなど)
・介助者が目を離してしまった など

【対策】
利用者ごとに合った食事形態への見直し
・食事中の声かけ、見守りの強化
・口腔ケアを行う

誤薬事故

原因

・本人のものではない薬を飲ませてしまう
・薬の量を間違える
・本人が勝手に服用してしまう

【対策】
念入りな確認を行う(飲む人の名前・薬の種類や量、飲むタイミング)
・ダブルチェックを行う

介護事故が起きたときの対応

介護事故のリスクマネジメントは必須ですが、それによって100%アクシデントがなくなるわけではありません。

何かしらの事故が起こってしまったときには、まずは焦らず冷静に対処するようにしましょう。

事故や現状に適した対処法を行うことが重要です。例えば、以下のような方法が考えられます。

転倒・転落事故の場合
意識があるのか、はっきりしているのかを確認する
・負傷した部位と状態の確認
・必要に応じて、応急処置を行う
・施設の医師や看護師に連絡する など

▼誤飲・誤嚥事故
何を誤飲・誤嚥したのかを確認する
・利用者に前かがみになってもらい、背中をさすったり軽くたたいたりして吐き出させる
・施設の医師や看護師に連絡する など

介護事故が起きたあとの対応

介護事故発生時の対処をして利用者の安全が確保できたら、速やかにご家族へ連絡しましょう。

後々のクレームになりやすいため、連絡方法をあらかじめ詳細に決めておくことがポイントです。

また、事故の原因調査が不可欠です。事業者には、事故の発生状況や対応、事故の原因についての説明が求められます。原因調査が完了したら、利用者やご家族など関係各所へ改めて報告が必要です。

このように適切に対処した場合でも、利用者やご家族に納得いただけず、最悪の場合には解決に至らず示談交渉が必要になるケースもあります。その際は、なるべく弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

要注意!介護事故が起きたときの間違った対応

介護事故が起きたときには、誠実な対応が必要です。対応を誤ると、事業者の評判や、利用者やご家族からの信頼が低下する可能性があります。また、訴訟リスクも否めません。

介護事故が発生したときの、間違った対応例は以下のとおりです。
・適切な応急処置を行わない
・事故を上司に報告しない
・事故を隠蔽する
・家族への説明をあいまいに済ませる
・職員に対して責任を追及する

事故発生時には、まず落ち着いて対処する必要があります。利用者たちの安全を第一に考え、必要に応じて応急処置なども行います。

また、事故については、発生時の前後の様子やその後の利用者の様子、症状、対応、原因について詳細な説明が必要です。

事故の大小やケガの有無を問わず、職員が管理者に報告できる環境を整えましょう。物理的にだけでなく、精神的にも事故の報告がしやすい職場であることが重要です。

そのためにも、事故発生に際してむやみに職員を責めるようなことをしないのも大切です。

介護現場のリスクマネジメントで利用者と職員が安心できる環境をつくりましょう

介護需要が高まるなか、介護現場においてもリスクマネジメントの重要性が注目されています。

利用者および職員の尊厳と安全を守るため、ひいては事業所を守るためにもリスクマネジメントが不可欠です。

リスクマネジメントは、事故の対処と分析をして終わりではありません。

何度も確認して、適宜見直ししながら改善し続ける必要があります。また、それを職員に周知、徹底させることが介護現場におけるリスクマネジメントのポイントです。