居宅介護支援事業所の立ち上げには何が必要?開業条件やフロー、収支について徹底解説

2023/12/27

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超高齢社会に突入した日本では、介護サービスに関するニーズが高まっています。

それに伴い、介護事業へ新規参入、あるいは介護関連のビジネスを拡大しようとする方も増加傾向にあります。

そのなかには、居宅介護支援事業所の立ち上げを考えている方もいるのではないでしょうか。

本記事では、居宅介護支援事業所の立ち上げに必要なことをはじめ、開業までのフロー、収支などについて分かりやすく解説します。

居宅介護支援事業所とはどんなものか

居宅介護支援事業所は、要介護者の在宅介護に関する相談を受けたり、ケアプランを作成したり、連絡・調整したりするための事業所です。

サービスを受けるためのケアプラン(介護サービス計画書)を作成することから、ケアプランセンターと称されることもあります。

居宅介護支援事業所の「居宅」については、自宅のほかに軽費老人ホームや住宅型有料老人ホームなどの居室も該当します。

なお、居宅介護支援事業所の利用料は介護保険から支出されるため、利用者負担はなしです。

また、アセスメントや関係者との相談など総合的な判断として、居宅での介護が困難という場合には、介護保険施設(特別養護老人ホームなど)への紹介を行うこともあります。

居宅介護支援事業所を立ち上げるための条件

居宅介護支援事業所を立ち上げるための条件

居宅介護支援事業所を新たに立ち上げる際、次の3つの要件を満たす必要があります。

①法人格の取得
②人員基準
③設備基準

①法人格の取得

居宅介護支援事業所の立ち上げにあたっては、法人格の取得が必要です。

法人格を取得することで、以下のような利点もあります。

・社会的信頼が得られる
・税制上の優遇措置が適用される
・補助金・助成金を利用しやすくなる
・節税効果がある

法人の種類については、事業拡大を見据えているなら株式会社、設立費用をなるべく抑えたいなら合同会社を選ぶとよいでしょう。

②人員基準

立ち上げ時には、常勤の管理者として主任介護支援専門員(主任ケアマネージャー)の資格を持っている人を設置する必要があります。

さらに、利用者35人に対して1人の介護支援専門員(ケアマネージャー)が必要です。

そのため、居宅介護支援事業所は1人で開業は可能ですが、対応する利用者数によってはケアマネージャーの増員が求められます。

③設備基準

設置場所については、事務所を借りる場合と自宅で開業する場合がありますが、いずれのケースでも以下の施設基準を満たす必要があります。

・作業を行う事務室、相談者のプライバシーが守られる相談室があること
・洗面所およびアルコール消毒液、石鹸など衛生面の配慮があること
・机や椅子があること(最低限置けるスペースを確保)
・鍵付きのキャビネットがあること
・運営規定を目がつくところに掲載すること

詳細については、自治体によって異なる部分もあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

居宅介護支援事業所を立ち上げるまでのフロー

居宅支援事業所の立ち上げに際しては、以下の流れで進めていきます。

1.事業計画を作成する
2.立ち上げの準備を進める
3.指定申請を行う
4.審査による決定を待つ
5.居宅介護支援事業所の立ち上げ!営業・サービスの提供開始</h3>

1.事業計画書を作成する

居宅支援事業所の立ち上げを検討する際、計画と情報収集が必要です。

「どんな場所に」「どういった人を対象として」「どのようなサービスを提供するのか」を考えます。

それらをふまえて、そのエリアについて市場調査をしたり、資金計画について相談したりします。

綿密な計画がビジネス成功への第一歩です。情報収集した内容をふまえて、事業計画書を作成しましょう。

2.立ち上げの準備を進める

事業計画書をもとに、立ち上げの準備を開始します。

・法人設立
・開業資金の調達
・物件の契約
・備品等の準備
・職員採用(規模に応じて)

3.指定申請を行う

立ち上げの準備と同時進行で、指定申請を行う必要があります。指定権者(市町村)に提出する書類は、以下のとおりです。

・指定申請書
居宅介護支援事業所の指定に係る記載事項
定款写し
申請者の登記簿謄本又は条例等
従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表
介護支援専門員証の写し
主任介護支援専門員研修修了証の写し
事業所の平面図・案内地図
外観及び内部の様子がわかる写真
事業所が賃貸であれば賃貸借契約書の写し
運営規程(料金表含む)
利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
損害保険加入の証書
関係区市町村並びに他の保健医療・福祉サービスの提供主体との連携の内容
誓約書
介護給付費算定に係る体制等に関する届出書

自治体によっては上記の他に書類が必要な場合もあるため、管轄の自治体にあらかじめ確認し、漏れのないようにしましょう。

4.審査による決定を待つ

上記の指定申請の書類をもとに、指定権者が実地調査や書類の確認、審査を行います。審査が無事に終わり認められれば、指定通知書が届きます。

指定通知書が届いてはじめて、居宅支援事業所の開業が可能です。

5.居宅介護支援事業所の立ち上げ!営業・サービスの提供開始

開業日に向けて、利用者を増やしていくための営業活動を開始します。

医療機関や介護施設、地域包括支援センターなどが主な営業先です。地域の行事なども営業活動を行う場として有効なときもあります。

①居宅介護支援事業所の開業資金

居宅介護支援事業所の立ち上げにかかる初期費用として必要なのは、100〜200万円が目安とされています。

内訳については、以下のとおりです。

・法人設立費:5〜30万円
・賃貸契約費:25〜50万円
・光熱費:5,000円〜2万円
・設備費:5〜20万円

事業の規模や内容によっては、カーリース代や駐車場代、人件費がかかることもあります。

②居宅介護支援事業所を立ち上げたときの収益

開業1〜2年は黒字化が難しいため平均値はマイナスとなっていますが、準備と対策さえできれば十分収益を上げることは可能です。

以下は収入・支出・利用者数・職員数の内訳の例となります。厚生労働省による2020年度の調査によるものです。

項目 内訳(例)
収入:介護事業収益 介護料収入:1,125,000円
補助金収入:1,000円
支出:介護事業費用 給与費:941,000円(人件費率83.6%)
減価償却費:16,000円
その他:171,000円
利用者 実利用者数:93.7人
実利用者1人当たりの収入:12,021円
職員 常勤換算職員数:2.6人
常勤換算1人当たりの給与費:363,346円

出典:厚生労働省『令和2年介護事業経営実態調査結果の概要

あくまでもひとつの目安として、事業計画の作成時などに参考にしてください。

居宅介護支援事業所の立ち上げに使える助成金

居宅介護支援事業所の立ち上げに使える助成金

居宅介護支援事業所の立ち上げにあたって、活用できる助成金や補助金がないかチェックして漏れなく活用することが、収支を上げることにもつながります。

地域創業企業補助金

地域創業企業補助金は、新規で事業を立ち上げる場合に利用できる補助金です。各地域によって名称や内容は異なります。

例えば東京では「東京都創業助成事業」といって、都内創業予定者、創業後5年以内の中小企業創業者の事業を支援する補助金があります。

補助額の限度は300万円以内です。

IT導入補助金

IT導入補助金とは、事業所に導入するPCやタブレット、PC周辺機器、会計ソフト、クラウドシステムなどの購入・導入に対する補助金です。補助対象によって補助額は異なります。

居宅介護支援事業所を立ち上げるメリット

居宅介護支援事業所を立ち上げるメリットは以下のとおりです。

①費用を抑えて事業所が立ち上げられる
②一人でも事業所の立ち上げができる
③自宅開業も可能である

①費用を抑えて事業所が立ち上げられる

居宅介護支援事業所は、他の介護ビジネスと比較して安価なことがメリットのひとつです。そのため、新規参入しやすく、収支を上げやすい分野だと考えられます。

費用が抑えやすいとされるいちばんの理由は、居宅介護支援事業所は相談スペースと事務作業を行うスペースがあれば十分なためです。

②一人でも事業所の立ち上げができる

居宅介護支援事業所は、自分が主任介護支援専門員(主任ケアマネージャー)の資格を有していれば1人で開業できることも特徴として挙げられます。

主任ケアマネージャーの資格を取得するには、実務経験+主任介護支援専門員研修の受講が必須です。すでにケアマネージャーとして従事している方の場合、難関資格ではありません。

ビジネスを始めて収支を上げるまでは1人で従事し、利用者が増えてきたら従業員を増やすといった方法がとれることも魅力のひとつです。このような手法をとることで、収支を上げやすくなります。

③自宅開業も可能である

上述したとおり、居宅介護支援事業所には相談スペースと事務作業を行うスペースがあればよいので、自宅での立ち上げも十分可能です。

ただし自宅開業を行う際は、居住スペースと事業スペースがきちんと分けて独立している必要があります。

フローや収支について理解してスムーズな立ち上げを

居宅介護支援事業所は、新規参入しやすい分野だとされています。

初期費用を抑えやすく、一人で開業できること、限られたスペースでも事業開始できることが理由として挙げられます。

収支を上げるには、綿密な事業計画を立てたうえで、初期費用を抑える工夫をし、助成金などを活用することがポイントです。

これからもニーズが高まる介護業界なので、ポイントを押さえて取り組めば、ビジネスを軌道に乗せて事業拡大することも可能です。

まずはその仕組みについてしっかり理解を深めましょう。