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介護現場におけるヒヤリハットとは?事例を交えて詳しく解説
2023/02/02
介護現場では注意をしていても、危うく事故になりそうな場面や状況が起こります。
万が一、介護現場で事故が起きた場合には、介護事業所はその事故について市区町村に報告する義務があります。
重大な事故を防ぐための方法のひとつに「ヒヤリハット」の活用があります。
介護事業所など介護の現場におけるヒヤリハットの活用についてまとめます。
目次
ヒヤリハットとは
ヒヤリハットとは、「ヒヤッ」としたり、「ハッ」とするような場面や状況のことを指します。
厚生労働省でもヒヤリハットを災害防止に結び付けるために、介護現場だけではなく、さまざまな仕事において危険有害要因を把握する方法のひとつとして、活用することを推奨しています。
ハインリッヒの法則
「ハインリッヒの法則」とは、主に労働災害の分野で使われていた事故の発生についての経験則で、1件の重大事故には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその軽微な事故の背後には、事故につながる可能性のあった300件の異常が隠れているという考え方です。
大きな事故を未然に防ぐためには、日ごろから小さな異常であるヒヤリハットが起こらないようにすることが重要であり、ヒヤリハットを無くすためにはヒヤリハットの情報を早期に把握し共有して、適切な対策を講じることが必要です。
ヒヤリハットの原因
介護の現場で起こるヒヤリハットの原因は、高齢者側にある場合と介護者にある場合、その場の環境や作業手順などにある場合が考えられます。
原因が高齢者にある場合
例えば、よく眠るための薬を服用している人が夜中にトイレに起きたとき、薬の副作用によって足元がふらつくことがあります。
このような時は転倒のリスクが高いと考えられます。
また薬の中には副作用のひとつとして、嚥下機能に影響を及ぼすものもあり、誤嚥や窒息のリスクが高くなっている可能性もあります。
このようなケースでは、服薬内容について見直す必要があるかもしれません。
原因が介護者に原因がある場合
介護者の気持ちが焦っていたり、睡眠不足や体調が優れないときなどには、ヒヤリハットも起こりやすくなります。
介護者も人間なので、常に心身の状態を良好に保つことは難しいことです。
心身の状態が優れないと感じたときには、無理せず他の人に交代できることが理想的です。
原因が環境にある場合
「室内の段差で転んだ」、「テーブルに飾ってあった花を食べてしまった」、「高いところにしまってあるものを取ろうとして踏み台から落ちた」など、高齢者の周囲の環境を見直すことでヒヤリハットを防げることがあります。
高齢者の生活や心身の状態に応じて、起こりうるヒヤリハットを予想しながら予防策を検討しましょう。
ヒヤリハットによる事故防止
ヒヤリハットを効果的に事故防止につなげるためには、ヒヤリハットが正確に報告され、職場全員で共有する必要があります。
ヒヤリハットは、報告する側にとっても報告を受ける側にとっても嫌なものですが、ヒヤリハットの報告を確実に受けるためには、当事者となった職員を「責めない」ことを約束することが必要です。
当事者職員のミスによって生じたヒヤリハットであっても、そのミスを誘発する要因があるとすれば、誰もが同じヒヤリハットをくり返す可能性があると捉えて、作業手順などを見直すことが重要です。
ヒヤリハット報告書
ヒヤリハットが発生したら速やかに報告書を作成しましょう。
ヒヤリハット報告書の作成者は、ヒヤリハット発生にかかわっているか、その場にいた職員です。
報告書は「5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、どうして、どうするか)」を記入することが基本です。
職場に報告書の書式がある場合はそれに従って記入しましょう。
ヒヤリハット報告書の書き方
初めにヒヤリハットがおきた日時や場所などを記入します。状況報告は実際に起きたことを起きた順に書きましょう。
記憶が曖昧だったり一部始終を見ていなかった場合は、わかることだけを記入し、わからない部分は不明であることを記入します。
家族や外部の人が見る可能性もあるため専門用語や略語は使用せず、誰でもわかる言葉を使いましょう。
報告者の考えや予測ではなく、客観的な視点でその場の状況やそのときに発せられた言葉などもそのまま書きます。
ヒヤリハットが発生した原因や対策については、発生の状況報告とは記入欄を分けて報告者の見解を記入しますが、再発防止の対策については、改めて多職種で検討する機会を設け、対策を統一することが必要です。
ヒヤリハット報告の共有
ヒヤリハット報告書は職種にかかわらず施設職員全員が確認し、情報を共有しておきましょう。
ヒヤリハット発生時の状況が正確かつ詳細に記録された報告書であれば、より有効な対策をとることができます。
ヒヤリハット報告書が提出されたあとは多職種で対応や対策を検討し、周知徹底しましょう。
ヒヤリハットの介護現場の事例
介護現場では、さまざまなヒヤリハットが発生する可能性があります。
ちょっとした配慮で防げる事象もあれば、誰もが予測しないような原因で起こることもあります。
ひとつひとつのヒヤリハットについて多職種がさまざまな視点で検討することで、より有効な対策をみつけることができます。
いくつかのヒヤリハット事例とその対策を挙げてみます。
ヒヤリハット事例1「ベッドから落ちそうになっているのを発見」
「夜間、介護職員が巡回した際、ベッドに対して斜めの向きで寝ていて、片足がベッドから落ちている状態の利用者を発見した。
枕と毛布もベッドの下に落ちていたが本人は眠っていて、その体勢に自覚はなかった。
本人をベッドの中央に寝かせて体勢を整え、緊急対応としてベッド柵を使用した。」
介護施設では身体拘束廃止の観点から、危険性がない場合はベッド柵を使用しないことがあります。
ヒヤリハット発生時は夜間であり、夜勤職員だけでは十分な対応がとれないと判断して、転落防止のために一時的にベッド柵を使用し、翌日家族にベッド柵を使用したことと今後の対応について生活相談員が電話で連絡をしています。
この事例の利用者は以前から寝相が悪く、寝ている間も体動が大きいことは他の介護職員たちも把握していたため、翌日からは低床ベッドを使用し、ベッド横にマットを敷いて対策をとりました。
ヒヤリハット事例2「トイレで排泄介助中にバランスを崩した」
「日中、利用者本人からの要望でトイレに誘導した。
立った状態で下衣を下す介助をしているときによろめいて介護職員にもたれかかったため、介護職員が尻もちをつきそうになった。
本人は立位を保っており異常なし。そのまま排泄を済ませた。」
このケースでは、通常は手すりにつかまって立ってもらっていましたが、ヒヤリハット発生時は手すりをつかんでいなかったため、手すりにつかまるように必ず声をかける対策を統一しました。
さらに最近歩行速度が遅くなっているという看護師からの意見があり、立位や歩行を安定させるため、下肢の筋力トレーニングを開始することとなりました。
ヒヤリハット事例3「食事中に入れ歯が外れてしまい、吐き出した」
「昼食を食べている途中、口の中のものを吐き出しているところを発見する。
理由を伺うと、『入れ歯が外れた。痛い。』と話された。吐き出されたものの中から入れ歯を発見。
洗面所で入れ歯を洗い、ブクブクうがいをしてから入れ歯を入れ直してもらうが、バネが緩んでいるようでしっかりとつけることができなかった。
本人が『入れ歯は無くても食べられる。』と話されたためそのまま食事を再開した。
特に食べにくい様子は見られず、残食もなかった。」
このケースでは、入れ歯は奥歯1本だけの小さな入れ歯でした。
朝食のときにも、入れ歯を外して食べているところを他の介護職員が気づいていたため、そのときに本人に声をかけてヒヤリハット報告をするか、他の職員に情報を伝えるなどしていれば、このヒヤリハットは防げたかもしれません。
本人が入れ歯を飲み込まずに吐き出せたこと、入れ歯の針金で口腔内を傷つけなかったことが不幸中の幸いだったといえます。
この数日後に訪問歯科を受診し入れ歯の調整をしましたが、入れ歯のバネが緩む可能性は今後もあるため、定期的に訪問歯科を受診して調整をするか、入れ歯が無くても食事が摂れていたため入れ歯の使用を中止するか、本人と家族に相談しました。
その後は月に1回訪問歯科を受診し、入れ歯を調整していましたが、数か月後には入れ歯の使用を中止しています。
ヒヤリハットで介護事故防止
介護現場にはさまざまな事故の可能性が潜んでいます。
事故に至らなかったヒヤリハットを未然に防いでいくことで、重大な事故の防止につながります。
高齢者も介護者も人である以上、予測できないようなことが起こることもあります。
その「ヒヤリ」や「ハッ」としたことを適正に報告して対策をたて、介護事故防止に役立てましょう。