肺炎の食事で注意すべき点は?誤嚥予防と回復を促す栄養ガイド

2025/11/14

肺炎の際の食事には、2つの重要な目的があります。

1つ目は「安全に食べること(誤嚥の予防)」です。

2つ目は「回復のために十分な栄養を摂ること」です。

特に高齢者の肺炎では、この2つのバランスが重要です。

この記事では、ご家庭で実践できる肺炎の食事の注意点を、専門的な知見から具体的に解説します。

なぜ食事に注意が必要なのか?特に高齢者は「誤嚥性肺炎」に注意

肺炎が、特に高齢者にとって危険な病気である理由を説明します。

厚生労働省の2022年(令和4年)「人口動態統計」によれば、肺炎は日本の死因の第4位です。

出典1:政府統計の総合窓口

そして、高齢者が発症する肺炎の多くは「誤嚥(ごえん)」が原因で発生します。

誤嚥性肺炎とは?

誤嚥性肺炎は、食べ物、飲み物、または唾液が誤って気管に入ることが原因です。

気管に入ったものに含まれる細菌が、気管支や肺に流れ込むことで発症する病気です。

高齢者の肺炎のうち、7割以上が誤嚥性肺炎であるとされています。

加齢などにより飲み込む力(嚥下機能)が低下すると、誤嚥しやすくなります。

このため、食事の内容や食べ方に注意することが、肺炎の予防と回復に直結するのです。

食事以外にできる予防策:口腔ケアの重要性

誤嚥性肺炎の直接の原因は、食べ物そのものではありません。

食べ物や唾液に含まれる「細菌」が肺に入ることで発症します。

たとえ誤嚥してしまっても、口腔内が清潔であれば肺炎の発症リスクを下げられます。

口の中の細菌を減らすため、口腔内のケアが非常に重要です。

毎食後の歯磨きやうがいを徹底しましょう。

また、定期的な歯科医院でのケアや、訪問歯科サービスを利用することも有効な手段です。

【注意点1】誤嚥を防ぐための食事の「食べ方」と「姿勢」

安全に食事をするための具体的な技術(姿勢、速度)について解説します。

食べ物や飲み物だけでなく、食べる時の「姿勢」や「食べ方」を工夫するだけで、誤嚥のリスクは減少します。

すぐに実践できる「安全な食べ方」の工夫

食事の際は、以下の点に注意しましょう。

  • 食事前の準備運動(発声練習など)
  • 一口の量を少量に
  • 完食後の次の一口
  • ゆっくりとした咀嚼
  • 早食い・ながら食べをしない(食事への集中)
  • 静かな食事環境の整備

 

ご家族は、本人が背中が丸まっていないか、よく噛んでいるかを確認します。

出典2:誤嚥性肺炎を予防する食事のしかた&免疫力を上げる食事を紹介(岡崎歯科)

食事の正しい姿勢:椅子とベッドの場合

誤嚥を防ぐためには、重力を利用できる正しい姿勢が重要です。

椅子に座る場合

基本は「椅子に深く腰かけること」です。

足の裏が床にしっかりと着く高さに椅子を調整します。

背筋を伸ばし、あごを軽く引いた姿勢をとります。

ベッドで食べる場合

ベッドの背上げ角度が重要です。

  • 60度(リクライニング位):自分で食べられる場合や、口腔内の保持が容易な場合に適しています。重力を利用して食道に食べ物を送り込みます。
  • 30度(リクライニング位):飲み込みがゆっくりで、介助が必要な場合に適しています。咽頭をゆっくり通過させることで、気管への流入を防ぎます。

 

どちらの場合も、首が軽度屈曲するよう、枕で頭頸部の角度を調整します。

胸部とあごの間に、指が3本から4本入る程度の間隔が目安です。

出典3:嚥下障害患者のリハビリテーション場面でのポジショニング(看護roo!)

 食後すぐに横にならない

食後すぐに横になると、胃の中の食べ物や胃酸が逆流することがあります。

逆流した内容物が気管に入る(誤嚥する)可能性があります。

胃食道逆流症(GERD)は、肺炎の予後を悪化させる可能性が指摘されているためです。

食後は30分から1時間程度、座った姿勢を保つようにしましょう。

特に就寝直前の食事は避ける必要があります。

【注意点2】肺炎の時に注意すべき食べ物・飲み物

肺炎の予防・回復において、具体的に「何を」「どのように」食べるべきか解説します。

肺炎の食事では「食べ物の形態」が重要です。

誤嚥を引き起こしやすい危険な食べ物

以下の特徴を持つ食べ物は、誤嚥のリスクが高いため注意が必要です。

サラサラした水分(水、お茶、汁物)

水やお茶、薄い汁物などは、流れが速すぎます。

飲み込みのタイミングが合わず、気管に入りやすい食品です。

「とろみ」をつけることで安全に飲めるようになります。

パサパサしてまとまらない食べ物(パン、クッキー、芋類)

パン、カステラ、クッキー、ゆで卵の黄身、粉ふきいもは注意が必要です。

口の中で水分が奪われ、うまく一つにまとまりません。

まとまらないまま飲み込むと、気管に入りやすくなります。

少量の水や牛乳と一緒に食べる、パンがゆにするなどの工夫が必要です。

口の中に貼り付く食べ物(海苔、わかめ、もなか)

焼き海苔、わかめ、もなかの皮、薄いウエハースは貼り付きやすいです。

口の中(特に上あご)に貼り付きます。

貼り付いたものが、後から剥がれて気管に落ちることがあります。

噛み切りにくい・バラバラになる食べ物(タコ、ナッツ類)

タコ、イカ、タケノコ、レンコンなど繊維質で硬いものは避けます。

ピーナッツ、ごま、大豆など、口の中でバラバラになりやすいものも危険です。

よく噛んでもまとまりにくかったり、呼吸と一緒に気管に入ったりします。

飲み込みやすい安全な食べ物(嚥下調整食)

誤嚥しにくい安全な食べ物の特徴は、「まとまりやすさ」と「適度な粘度」です。

口の中でまとまりやすく、スムーズに食道へ送り込める形態が推奨されます。

具体例:

  • プリン、ゼリー
  • 茶碗蒸し、温泉卵
  • ポタージュ、シチュー
  • ヨーグルト、とろろ
  • おかゆ、よく煮込んだうどん

安全な食事形態の目安「嚥下調整食分類2021」とは

どの程度の柔らかさや形態にすれば良いか迷う場合、専門的な基準が参考になります。

医療や介護の現場では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会が定めた基準が標準的に使われています。

「嚥下調整食分類2021」は、飲み込みの難易度に合わせて食事の形態を分類したものです。

出典4:嚥下調整食学会分類(日本摂食嚥下リハビリテーション学会)

 専門的な食事形態の分類コード

この分類は、食事の形態をコード0(訓練用)からコード4(噛みやすい)までに分類しています。

数字が小さいほど、飲み込む力が弱くても食べられるように調整された形態です。

ご家庭での目安として、この分類を簡潔に紹介します。

家庭でできる嚥下調整食の目安(学会分類2021に基づく)

分類コード(目安) 食べられる状態 主食の例 おかずの例
コード4 歯ぐきでつぶせる硬さ 軟飯(やわらかいご飯)、全粥 箸で切れる煮物、卵焼き、豆腐
コード3 舌と上あごでつぶせる 全粥、パンがゆ、煮込みうどん 舌でつぶせる煮魚、だし巻き卵
コード2 (2-1, 2-2) 噛まずに飲み込めるペースト状 ミキサー粥、ペースト粥 なめらかなペースト食、ポタージュ
コード1j 均質なゼリー・プリン状 おもゆゼリー 野菜ゼリー、ムース、プリン
コード0j, 0t 訓練用の均質なゼリーやとろみ水 (栄養摂取目的ではない) (嚥下訓練用ゼリーなど)

※注意:どのコードが適しているかは、本人の状態によって異なります。必ず医師や言語聴覚士、管理栄養士の指示に従ってください。

ご家庭でできる調理の工夫

上記の分類を参考に、ご家庭でできる具体的な調理のコツを解説します。

飲み物:とろみ剤の使い方

水やお茶、汁物には、市販の「とろみ剤」を使って適切な粘度をつけます。

とろみの濃さは、本人の状態に合わせて調整が必要です。

主食:おかゆ、パンがゆ、やわらかい麺

主食をおかゆにしたり、パンは牛乳で煮込んだパンがゆにしたりします。

麺類は、歯茎でもすりつぶせるくらい、くたくたに煮込みます。

おかず:細かく刻む、すりつぶす、あんかけにする

食材はできる限り細かく刻んだり、すりつぶしたりします。

そぼろや根菜などバラバラしやすい食材は、しっかり煮込む必要があります。

とろみをつける(あんかけにする)と、口の中でまとまりやすくなるでしょう。

里芋やレンコンのすりおろしを「つなぎ」として使うのも有効です。

肺炎の「回復段階別」栄養摂取ガイド

肺炎の治療中は、体の状態に合わせて食事の内容を変える必要があります。

「発熱がある時期」と「熱が下がり始めた回復期」に分けて、摂るべき栄養素を解説します。

急性期(発熱・食欲不振の時期)の食事

発熱があり、食欲がない時期は、無理に食べる必要はありません。

水分補給を最優先にする

発熱により体内の水分が失われるため、水分補給が最も重要です。

水、麦茶、スポーツドリンク、経口補水液などを摂取します。

誤嚥に注意し、必要ならとろみをつけてこまめに摂取しましょう。

消化が良くエネルギーになるもの

食欲が少し出てきたら、消化の良いものから始めます。

  • おかゆ、そうめん、よく煮込んだうどん
  • ゼリー、フルーツ缶詰、野菜ジュース、みそ汁
  • 豆腐、茶碗蒸し、卵がゆ

 

喉越しが良く、栄養価も高い豆腐や茶碗蒸し、卵がゆは特におすすめです。

 回復期(体力が戻り始めた時期)の食事

熱が下がり、症状が改善してきたら、体力を回復させるための栄養補給が必要です。

肺炎で消耗した体力を取り戻すため、特に「タンパク質」と「ビタミン」を意識して摂取します。

体力回復のための「タンパク質」

タンパク質は、ダメージを受けた体を修復し、筋肉の消耗を防ぐために不可欠です。

消化が良く、高タンパクな食材を具体的に紹介します。

  • 卵、豆腐、豆乳(消化が良い植物性たんぱく質)
  • 鶏肉(親子丼など)、豚肉
  • 白身魚(鯛など)、鮭、いわし
  • サバやツナの缶詰、魚肉ソーセージ

免疫力を支える「ビタミン・ミネラル」

体の調子を整え、免疫機能をサポートするためにビタミン類も重要です。

  • ビタミンA:粘膜を丈夫にします。(ほうれん草、ニンジン、かぼちゃ、ニラ)
  • ビタミンC:抗酸化作用があります。(じゃがいも、バナナ、キウイ、いちご、柿)※じゃがいもやさつまいものビタミンCは、デンプンに守られており、加熱しても壊れにくい特徴があります。
  • ビタミンE:抗酸化作用で細胞を守ります。(アーモンド、ピーナッツ、ごま、かぼちゃ)
  • ビタミンD:免疫力のアップに役立ちます。(さけ、いわし、きのこ類)

 

緑黄色野菜やきのこ類、果物をバランスよく取り入れましょう。

免疫の維持を助ける「腸内環境」を整える食事

腸内には多くの免疫細胞が存在しています。

腸内環境を整えることが、体全体の免疫力を高めることにつながるのです。

「腸肺相関(ちょうはいそうかん)」と呼ばれる、腸と肺の免疫機能が関連している仕組みが注目されています。

出典5:COVID-19における腸-肺軸の腸内細菌叢変調(中垣技術史事務所公式サイト)

以下の食材を積極的に摂取しましょう。

  • 発酵食品:善玉菌の直接摂取(ヨーグルト、納豆、みそ、キムチ、チーズ)(引用元:https://okazaki-dc.jp/blog/aspiration-pneumonitis-meal/)
  • 水溶性食物繊維:善玉菌のエサ(海藻、ごぼう、アボカド、バナナ、納豆、大麦)(引用元:https://okazaki-dc.jp/blog/aspiration-pneumonitis-meal/)
  • オリゴ糖:善玉菌のエサ(ごぼう、玉ねぎ、ねぎ、バナナ、はちみつ)(引用元:https://okazaki-dc.jp/blog/aspiration-pneumonitis-meal/)

毎日の食事準備が難しい場合の選択肢

これまでに解説した「安全」で「栄養価の高い」食事を毎日準備するのは、介護者にとって大きな負担となります。

無理をせず、便利なサービスを利用することも賢明な選択です。

栄養補助食品の活用

食欲不振が続く場合、一度に多くの量を食べられない場合があります。

そのような時は、少量で効率よく栄養を摂取できる「栄養補助食品」の活用も検討しましょう。

ゼリータイプやドリンクタイプなど、様々な製品があります。

かかりつけの医師や薬剤師、管理栄養士にご相談ください。

栄養バランスの整った食事

回復期の体力づくりには、バランスの取れた食事が重要です。

高齢者の栄養バランスについて、詳しくは下記の記事もご覧ください。

関連記事:【保存推奨】介護食で栄養バランスを上手に摂る4つのコツとは?

 高齢者向けのやわらかい食事

飲み込む力(嚥下機能)が低下した方のために、食べやすさに配慮した食事のご用意もあります。

食材の硬さや大きさを調整し、安全に召し上がっていただけるよう工夫しています。

ご本人の状態に合わせて、お食事の形態をお選びいただけます。

関連記事:高齢者の食事で気をつけたい栄養バランスと冷凍食品の活用法

持病に合わせた食事

肺炎の治療と並行して、他の持病の管理も必要です。

糖尿病や腎臓病などで塩分やカロリーの調整が必要な方にも対応した、専門のお弁当もございます。

ご家族の調理の負担を軽減するためにも、ご相談ください。

介護食の種類や調理のコツについて、詳しくは下記の記事もご覧ください。

関連記事:介護食の5つの種類とは?2つの選び方や気を付けるポイントも教えます

まとめ:肺炎の食事は「誤嚥予防」と「栄養補給」が鍵です

肺炎、特に高齢者の誤嚥性肺炎の食事で注意すべき点をまとめます。

安全に食べる(誤嚥予防)

  • 正しい姿勢(あごを引き、深く座る)
  • 危険な食べ物(サラサラ、パサパサ)を避ける
  • 安全な食べ物(まとまる、とろみ)を選ぶ
  • 口腔ケアで口の中の細菌を減らす

 

回復のために食べる(栄養補給)

  • 急性期は「水分」と「消化の良さ」を優先
  • 回復期は「タンパク質」と「ビタミン」を摂取
  • 「腸内環境」を整え、免疫力をサポート

ご本人とご家族の負担を軽減するためにも、栄養補助食品や配食サービスの利用も選択肢となります。

正しい食事の知識を身につけ、肺炎の回復と予防に取り組みましょう。