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ICF(国際生活機能分類)で必要な介護が見えてくる!
2024/01/29
ICFとは「国際生活機能分類」のことで、世界共通の分類指標であり、人の健康状態に関係する構成要素をコード分類するものです。
ICFの概念を用いて利用者の課題把握や評価をし、多職種で情報を共有することで、ひとりひとりに合った適切な介護を考えるのに役立ちます。
介護の現場に活用するためには、ICFの仕組みについてきちんと理解しておく必要があります。
そこで今回は、ICFの概要や分類項目について解説したいと思います。
目次
ICF(国際生活機能分類)とは?
ICFとは2001年にWHOによって採択された「International Classification of Functioning, Disability and Health」の略で、「国際生活機能分類」と訳されます。
もともと健康分野で利用されていましたが、現在では保健、社会保障、労働、教育、経済、社会政策、立法、環境整備など、多くの領域で用いられるようになっています。
介護現場においては、要介護者の課題抽出や多職種間の情報共有などに役立ち、さらにマイナス面だけではなくその人の持つ強みに着目することで、より良い介護につなげることができます。
ICIDHとの違い
ICIDHとは1980年にWHOによって採択された国際障害分類であり、ICFの前身とされています。
ICIDHでは疾患のほかに、その人の生活や人生の問題も含めた障害をとりあげ、障害が「機能・形態障害」「能力障害」「社会的不利」の3つのレベルからなる階層構造をなしているとしています。
このように3つのレベルに分けることで、機能や形態障害があっても能力障害を解決でき、能力障害が残っても社会的不利を解決することができるという柔軟な考え方が、この考え方はICFにも受け継がれています。
しかし一方でICIDHでは、「生活・人生の問題点」を疾患の帰結として考えマイナス面に注目していることや、障害の発生について疾患以外の環境的因子を考慮していないなどの問題点がありましたが、ICFではこれらの問題点は解決されていると考えられています。
ICFの特徴
ICFには次の6つの要素があります。
1.健康状態
2.心身機能・身体構造
3.活動
4.参加
5.環境因子
6.個人因子
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
上図のようにそれぞれの要素を単独で捉えるのではなく、相互作用を重視しているのがICFの特徴です。またマイナス面だけに着目するのではなく、プラス面も重視します。
環境因子や個人因子に注目することで、その人の生活を広い視点でとらえることができ、中立的な用語を用いることで、専門職種にかかわらず共通言語として理解することができます。
ICFの目的
厚生労働省では社会保障審議会の中でICFの目的について「生きることの全体像を示す共通言語である」として、さまざまな専門分野や異なった立場の人々の共通理解に役立つことを目指すとしています。
つまり専門家だけではなく、医療や介護にかかわる職種や、本人やその家族を含めた健康づくりや社会参加等に取り組む全ての人の健康状態と健康関連状況について、全人的に把握するために、統一した標準的な言語で作られた分類ということです。
ICFの構成
ICFでは健康状態と、生活機能の3分類、それに影響する2つの背景因子で構成されています。
生活機能は「心身機能・構造」「活動」「参加」3つの要素から成り立っており、それに影響する背景因子には「環境因子」「個人因子」があります。
各要素がそれぞれ複雑に絡み合い、影響し合って成り立っています。
相互の影響はマイナスの影響もプラスの影響も含まれ、また影響の内容や程度は個々人で異なるため、具体的にとらえることが重要とされています。
これらの組み合わせによって、約1,500項目もの分類が行われます。
ICF(国際生活機能分類)の6分類
その人にとって本当に必要な介護とは何かを考えるためには、要介護者の健康状態や心身機能・身体構造を把握することが大切です。
さらにその背景についても把握することで、全体像が見えてきます。
次に、ICFの6つの要素について詳しく見ていきましょう。
ここで示す記載例は、介護分野におけるICFの利用を想定しています。実際の記載については、各職場の方法に従ってください。
「健康状態」
ICFにおける「健康状態」とは、本人の病気やケガ、体調の変化などの健康状態を指します。肥満や高血圧、妊娠、ストレスの状態なども含まれ、必ずしも医師の診断を受けた疾患だけではなく、治療の有無にかかわらず本人が抱えている心身の状態を詳細にみていくことで健康状態を詳しく把握することができます。
「健康状態」の項目では、現疾患や合併症、既往歴を記載します。
さらに病気の経過や状態、服薬状況等についても詳細を記入しておくと、健康状態をより正しく理解できます。
<健康状態の記載例>
○疾患名
・変形性股関節症:昨年4月右股関節人工関節置換術を受け、現在は痛みなし。
○既往歴
・左踵骨折:20年前に交通事故によって骨折。現在は寒くなると痛むことがあるが日常生活に支障なし。
・花粉症:スギ・ヒノキ花粉アレルギー。毎年2~5月に服薬している。
○服薬
・アレジオン(抗アレルギー薬):2~5月の間のみ服用。
・酸化マグネシウム(便秘薬):頓用。無便3日目に服用。
生活機能:「心身機能・身体構造」
「心身機能」には、手足の動きや視覚・聴覚、精神面の状態が該当します。「身体構造」には、手足の関節の構造や靭帯、胃・腸、皮膚など体の部位の状態が含まれます。
いずれも、生命の維持に直接的につながるものです。
ICFの項目として記載する場合は、「プラス面」と「マイナス面」に分けて記載すると、その人のできること・できないことが把握しやすくなります。また専門用語は使用せずに記載するようにしましょう。
<心身機能・身体構造の記載例>
○プラス面
・嚥下障害なし。
・精神状態は安定、不穏行動なし。
○マイナス面
・腰痛がある。
・義歯を使用しているが、肉など食べにくいものがある。
・軽度認知症(長谷川式19点)あり。
生活機能:「活動」
日常生活のために必要な食事や入浴、着替えなどのADL(日常生活動作)、料理や洗濯などのIADL(手段的日常生活動作)などが、ICFにおける「活動」に該当します。
その他、仕事や遊び、スポーツなども含まれます。
ICFではさらに、「できる活動(能力)」と「している活動(実行状況)」の2つに分類します。
項目として記載する場合は、「プラス面」と「マイナス面」に分けて記載することもあります。
<活動の記入例>
○できる活動(能力)
・箸を使用し食事摂取自立。
・トイレを使用し排せつ自立。
・歩行自立
○している活動(実行状況)
・入浴は背面の洗体に介助が必要。
・手すりがある場所は、手すりを伝って歩く。
○活動の制限(マイナス面)
・薬を飲んだかどうか、わからなくなることがある。
・腰痛があるときは、長い時間は歩けない。
生活機能:「参加」
「参加」とは、家庭や地域社会の中で何らかの役割を持っていることを指します。
家庭内では家事など、地域社会では行事への参加や趣味・スポーツへの参加などが挙げられます。
その他、政治や宗教なども含まれ、広い範囲が対象です。
ICFでは、参加した内容をそのまま記載します。「プラス面」と「マイナス面」に分けて記録することもあります。
○参加(プラス面)
・デイサービスに週2回通っている。
・地域のごみ拾い活動に家族と一緒に参加している。
・洗濯物を毎日畳んでいる。
○参加制約(マイナス面)
・家電を使った家事は困難。
・地域活動に1人で参加するのは困難。
背景因子:「環境因子」
「環境因子」には、「物的環境」「人的環境」「社会的環境」の3つがあります。
具体的には、以下のとおりです。
・物的環境:天候や交通手段、福祉用品など
・人的環境:家族や友人、介護サービス提供者など
・社会的環境:医療・福祉サービス、保険制度など
環境因子を記載する場合は、これら3つの環境ごとに内容を記載していくとよいでしょう。
<環境因子の記入例>
○物的環境
・自宅は2階建て、敷居など段差が多い。
・最寄りの駅、バス停までは徒歩で行くことができる距離。
○人的環境
・息子と嫁と同居しており、孫は他県に住んでいる。
・近隣に実妹が居住している。
○社会的環境
・医療保険
・介護保険
・国民年金
背景因子:「個人因子」
ICFにおける「個人因子」とは、個人が持つすべての特徴です。
例えば、以下のようなものが該当します。
・年齢
・性別
・身長
・体重
・学歴
・職歴・職位
・モチベーションや情緒 など
これら以外にも、民族や宗教、価値観に至るまで、その人を形成する個性はすべて「個人因子」に含まれます。
このような背景因子は、個人によって大きく異なります。そのため、たとえば同じような心身機能を持つ人であっても、背景因子に着目することでより個別性を持った存在として捉えることができます。
すると、その人にとって本当に必要な介護が見えてくるはずです。
<個人因子の記入例>
○個人因子
・年齢:83歳
・性別:女性
・身長:148㎝
・体重:45㎏
・性格:穏やかで人と話すことが好き。人の役に立ちたい気持ちが強い。
ICFの分類コードと評価点
ICFによる分類は「アルファベット・数字・小数点(分離点)・数字」の順で表現されます。
分離点前のアルファベットと数字が「分類コード」、分離点から後ろの数字が「評価点」を表しています。
分類コード
分類コードの先頭のアルファベットは、生活機能と環境因子のいずれかの頭文字となっています。
b=心身機能(body functions)
s=身体構造(body structures)
d=活動・参加(domain of activity and participation)
e =環境因子(environmental factors)
アルファベットに続く数字でその内容を表しますが、左1桁目が「章番号」、続く2~3桁目までが「第2レベルの分類」、4桁目が「第3レベルの分類」、5桁目が「第4レベルの分類」と細分化され、一般的には第2レベルまでの分類でも十分活用できると考えられています。
小数点(分離点)に続く数字は評価点を表し、コードで示された要素に対しての問題の重大さを示します。
評価点は構成要素によって階層があり、左から第1評価点、第2評価点、第3評価点を示します。
b:心身機能とe:環境因子は第1評価点、s:身体構造は第3評価点、d:活動・参加は通常第2評価点ですが、任意で第3・4評価点を表記します。
評価点はその程度によってルールが設けられています。
<評価点における程度のルール>
xxx. 0 問題なし(なし、存在しない、無視できる…) 0〜4%
xxx. 1 軽度の問題(わずかな、低い…) 5〜24%
xxx. 2 中等度の問題(中程度の、かなりの…) 25〜49%
xxx. 3 重度の問題(高度の、極度の…) 50〜95%
xxx. 4 完全な問題(全くの…) 96〜100%
xxx. 8 詳細不明
xxx. 9 非該当
ICFによってできること
ICFの基本は6分類ですが、健康状態や、心身機能をはじめとする生活機能、背景因子の組み合わせによって、約1,500項目もの分類が行われます。
要介護者の個人データがより詳細なものとして明らかになります。
ICFで必要な介護がわかる
詳細な個人データが明確になると、その人にとって本当に必要な介護がわかります。
たとえば「自分でできることまで過剰に介護していた」「自分でやりたいという意思あるいは心身機能があるにもかかわらず、リハビリ不足だった」といった問題が見つけられるケースもあります。
その人が抱える問題や本当はできることなどが把握できるようになると、必要な介護が見えてきます。
すると、より質の高い介護を行う事にもつながります。
情報共有に役立つ
「生きることの全体像を示す共通言語」であるICFは、情報共有に役立ちます。
家族や介護従事者、ケアマネジャー、看護師などさまざまな立場にある人々の間で、要介護者の全体像に関する詳細な情報が共有できるようになります。
それは、潜在的なニーズや効果的な介入を理解し、実行するためにも必要なことです。
ICFで必要な介護を考えましょう
ICFでは6つの要素に分けて考えることにより、要介護者の健康状態や心身機能などの生活機能を明らかにします。環境因子にも着目することで、その人の全体像が把握できます。
また情報共有しやすいのもICFの特徴です。
ICFは、その人にとって本当に必要な介護を判断したり、介護にかかわるすべての人の共通理解を深めたりするうえで有効です。
より質の高い介護を実践するために、ICFを取り入れましょう。