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転倒が介護事故で最も多い!予防するポイントとは?
2024/01/29
高齢者は、加齢による影響や疾患、薬などの影響で転倒しやすくなります。実際、転倒は介護事故の中で最も多く起こっています。
高齢者が転倒してしまうと、骨折や寝たきりにつながり介護が必要になってしまうこともあり、高齢者が自分らしく生活する妨げとなってしまうこともあるため十分な配慮が必要です。
そこでこの記事では、高齢者が転倒しやすい原因をはじめ、介護施設での転倒予防のポイントや万が一転倒してしまった場合の対応方法などを紹介します。
目次
転倒が介護で最も多い事故
平成26~29年の間に厚生労働省老健局に報告された重大な介護事故についての調査結果によると、最も多いのは転倒・転落・滑落で全体の65.6%にものぼります。
次に多いのが誤嚥・誤飲・むせこみで、13%となっています。これらの事故のおよそ9割が、介護施設で発生しているということです。
介護現場では、移乗、排泄、入浴などあらゆる場面において転倒の可能性があり、多くは目を離してしまった隙や他の利用者を見ている時などに発生しています。
また、利用者同士の接触・交流による事故や、利用者が徘徊して転倒してしまう事故などもあり、どれだけ気を付けていても100%防ぐことは不可能です。
転倒リスクが高い利用者には特にしっかりと補助を行うことや、転倒が起こりやすい場所には手すりを設置するなどの環境面での対応など、転倒予防にはさまざまな対策が必要となります。
転倒しやすい要因とは?
高齢者が転倒しやすい要因には、生活環境要因を主とする外的要因と、身体的要因を主とする内的要因が挙げられます。
ここでは、外的要因と内的要因についてそれぞれ解説します。
高齢者の転倒リスクを高める外的要因
高齢者が生活する上で転倒しやすい場所を確認しておきましょう。履物や杖のサイズ感にも注意が必要です。
▼高齢者の転倒リスクを高める外的要因
室内 | ・照明(照明が無い、暗い照明) ・階段、戸口(段差が大きい) ・床(床が滑りやすい、カーペットが捲れやすい) ・敷居(段差が大きい) ・障害物(通路に配線がある、家具を固定していない) ・浴室(床が滑りやすい、手すり) |
屋外 | ・道路(坂道、歩道と車道の段差) ・障害物(道路上の障害物) |
その他 | ・不適切な履物(滑りやすい、サイズが合っていない) ・不適切な杖(サイズが合っていない、劣化している) |
高齢者の転倒リスクを高める内的要因
内的要因としては、疾患や加齢による筋力の低下、視力やバランス感覚などの身体機能の低下などが挙げられます。
内的要因となる疾患は数多く、白内障や緑内障などの視力障害を引き起こす病気や、失神し転倒する危険がある脳血管疾患や循環器疾患などがあります。また、骨関節障害や認知症など、転倒の要因となる病気は多岐にわたります。
他にも、飲んでいる薬の影響によるふらつきや眠気、活動性の低下なども内的要因に含まれます。
高齢者の場合、体調の変化があっても介護スタッフに言えなかったり、自分自身が体調の変化に気付いていなかったりといったことも多く、注意が必要です。
これらの要因は、複数存在して相互に関連しており、危険因子が増えるほど転倒のリスクも大きくなります。
▼高齢者の転倒リスクを高める内的要因
病気 | ・視力障害(白内障、緑内障、糖尿病性網膜症、近視、遠視) ・中枢神経障害(脳梗塞などの脳血管障害、パーキンソン病、認知症) ・末梢神経障害(糖尿病性末梢神経障害) ・筋障害(筋ジストロフィー、多発性筋炎) ・骨関節障害(変形性関節症、関節リウマチ、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症) ・循環器障害(狭心症、心不全、不整脈、起立性低血圧) ・呼吸器障害(慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息) |
薬物 | ・向精神薬 ・抗うつ薬 ・鎮静剤 ・睡眠薬 ・降圧剤 ・血糖降下剤 |
その他 | ・アルコール ・加齢 |
介護施設での転倒事故を防ぐには?
高齢者の転倒事故には、未然に防げるものと防げないものがありますが、未然に防げる事故については徹底的な対策が必要です。
介護施設で転倒事故が多く起こる背景には、高齢者の内的・外的要因に加え、施設側の要因も含まれます。具体的には、介護スタッフの人手不足や、入居者の生活環境などがあげられます。
特に深刻なのは介護スタッフの人手不足です。
介護施設に入居する高齢者の平均年齢の上昇とともに、介護度の高い入居者がどんどん増えてきていますが、介護スタッフの不足により入居者を見守る体制が万全ではない、という施設もあります。
これらの要因も踏まえた上で、転倒しにくい環境や仕組みを整備することが大切です。
介護施設の中で転倒が生じる状況
●どこかに移ろうとした
・ベッドから車椅子
・車椅子から便器
●歩行時
・足がもつれた、よろけた
・急に膝の力が抜けた
・何かに躓いた、滑った
・履物が脱げた
●意識消失
・あお向けや前のめりに倒れた
●段差や障害物
・段差を降りる時に踏み外した
・段差や障害物に躓いた
●人や物につかまろうとした
・しっかりとつかめなかった
・物が動いて支えを失った
介護施設における転倒予防のポイントとは?
①環境整備
介護施設内での転倒事故の多くは、立位もしくは歩行中によるものが多いとされています。
また、ベッド周辺での事故も多く、立位/歩行中の転倒と合わせると全体の約7割を占めています。
意外にも、トイレや浴室などの方向転換が多い環境よりも、居室や寝室などの日常よく過ごす場所での転倒が圧倒的に多いのです。
転倒のきっかけとなりやすい物には、スリッパや靴下、身の回りの物などがあります。また、居室の転倒予防には以下のような策が講じられます。
・カーペットはめくれたり滑ったりしないように、カーペットテープを使用して固定する。
・厚手の靴下や、重ね履きは足の裏の感覚が鈍くなるため、注意が必要。また、靴下やスリッパは滑りにくいものを選ぶ。
・ベッドの高さは、足がつき立ち上がりやすい適切な高さにする。キャスターがついている場合は、内側に向ける。
・ふすまや扉の低い段差は、蛍光テープで目立たせて段差へ注意を向きやすくする。または、段差解消スロープを設置する。
・家電の配置を工夫し、電気コードを露出させない。
・よく使うものは、手の届きやすい位置に置く。
・転倒リスクの高い利用者の居室には、離床センサーや見守りカメラを設置する。
②入居者の心身の状態を把握する
前述したように、転倒は施設の環境だけでなく入居者の内的要因によってもリスクが上がります。
そのため、入居者の現在の体調、病状、心の状態などをしっかりと把握しておくことが非常に重要です。
多くの高齢者は、体力や筋力が低下しています。加えて、持病を持っていたり、認知症を患っていたりすることもあります。
健康状態や服用している薬、また日々の行動なども細かく把握しておくことで、内的要因による転倒を予防できる可能性があります。
また、入居者の状態をアセスメントする「転倒リスク評価」は必須です。入所時だけでなく定期的な見直しを行い、介護スタッフ全体で共有しておく必要があります。
③転倒予防のリハビリテーションや運動をする機会を設ける
転倒しないためには、身体のバランスを保つことや立ったり座ったりする筋力を維持することが重要です。
リハビリテーションを積極的に受けてもらうことはもちろんのこと、日常生活の中にも運動の機会を取り入れると良いでしょう。
例えば、食事を待っている時間に、椅子に座った姿勢のまま腿上げやかかと立ち、つまさき立ちなどの軽い運動を促す、レクリエーションでは体を動かせるものを企画するなど、今ある筋肉をなるべく落とさないようにする工夫が必要です。
④声のかけ方に注意する
高齢者は、若い頃と比べるとどうしても動きが緩慢になります。そこで高齢者を急かしたり、不安にさせたりするような声のかけ方をすると、心理的負担がかかってしまい転倒しやすくなるため、配慮が必要です。
また、後ろから急に声をかけられると、振り向きざまに転倒してしまうこともあるため、声をかける時は前側から行うといった配慮も全スタッフに周知しておきましょう。
転倒してしまった場合の対応とは?
介護施設内での転倒は、多くの原因が重なって生じることが多く、高齢になるほど十分な転倒予防対策をしていても起こり得るものです。
転倒事故が発生してしまっても、それは必ずしも介護施設だけの責任とは言えません。
利用者自身の身体能力や、家族の協力なども重要な要素となります。
実際に転倒事故が起こった際に、トラブルとならないよう施設入所時に、施設の職員から入所者およびその家族に説明が必要です。
具体的には、転倒は複数の要因が複雑に関係して発生すること、高齢になるほど要因が複雑になり根本的な治療は困難であること、転倒を減らすために医療・看護・介護の連携で対処すること、それらの対処でも予防しきれない転倒が発生することを説明します。
また、転倒事故が発生した時の対応についてマニュアル化し、全介護スタッフで共有しておくことも迅速かつ適切な対応をとるために必要なことです。
外傷の程度によっては慌てて起こそうとしてしまうと、症状が悪化する可能性があります。
どのスタッフでも落ち着いて冷静に判断できるよう、日頃から研修や勉強会で知識を身につけさせておくことも重要です。
転倒発生時の対応手順例
1.発見者による転倒者の病状の把握
□ バイタルサインの測定
□ 外傷の状況や骨折の有無
□ 意識レベルの確認、声かけへの反応、指示することへの反応はあるか
□ 頭痛、嘔気、動く時・動かそうとした時の痛み
□ 嘔吐、瞳孔の左右差、麻痺
□ 転倒した際の状況を把握
2. 関係者への報告と情報共有
□ 医師への報告(管理医師がいる施設)
□ 早急な家族への連絡
□ 詳細な転倒記録の記載
□ 職員間での情報共有
□介護事故報告書の記入(発生から5日以内)
□ 市区町村への届出(骨折等の場合)
【骨折が疑われる場合】
ぶつけた箇所に腫れや変形が生じていたり、痛みが強く自力で起き上がれなかったりする場合には骨折が疑われます。
特に高齢者は骨が脆くなっているため、ちょっとした衝撃でも骨折してしまうことがあります。
特に骨折しやすい部位は、大腿骨、腰椎、手首です。骨折が疑われる場合は、RICE処置を行うと痛みや腫れを軽減することができます。
【頭をぶつけた場合】
転倒した際に頭を強くぶつけた場合は、脳震盪や硬膜下血種、頚椎損傷などを起こす可能性があります。
救助者は転倒した人の頭部を両手で包むように保持し、声をかけて反応や正常な呼吸をしているか観察してください。
反応がない場合、もしくは数秒でも意識を消失していた場合は、すぐに119番通報をし、AEDと応援を手配、正常な呼吸が無ければ心肺蘇生を開始する必要があります。
正常な呼吸があっても、頭部は保持したまま救急隊が来るのを待ちます。
反応がある場合は、頸部に痛みがないか、上下肢の感覚異常や筋力低下がないか確認します。1つでも異常があれば救急車を要請し、頭部を保持したまま救急隊を待ちましょう。
頚椎の外傷が無ければ、頭痛やめまい、吐き気などの症状や、つじつまの合わない発言がないか、質問への回答が遅くないかなど普段と違うところはないか観察します。
15分以上症状や普段と違う状態が続くようであれば、すぐに受診します。
異常がない場合でも、慢性硬膜下血種といって受傷から3週間以上経過したあとに意識障害や頭痛などの症状がみられることがあるため、受傷後は継続した観察が必要です。
転倒を予防するために
高齢者は加齢による身体機能の低下だけでなく、病気や薬物の影響で転倒しやすくなっており、さらにそこに照明の暗さや手すりが無いなどの外的要因が加わることで転倒リスクが高くなります。
高齢者の転倒による介護事故を防ぐためには、事故の原因となる要因を減らすことが重要です。
また、施設側の要因を減らすために、現場の正確な状況を知り、生活環境の見直しや見守り体制の強化などが必要になります。
介護スタッフの人手不足により転倒事故が起こってしまうこともあるため、人材確保に力を入れたり、現場のICT化をはかったりなど、事業所の実情と照らし合わせた工夫も求められます。
万が一入居者が転倒してしまった際には、迅速かつ適切な対応をとれるよう研修や勉強会を定期的に開催するなど介護スタッフの教育も必要不可欠となります。
さらに、転倒事故の原因は複合的に絡み合っていることが多く、完全に防ぐことは難しいことを入居者本人やご家族に理解してもらう必要があります。
そのためには日頃からのコミュニケーションを大切にして、介護スタッフと入居者本人、そしてご家族との信頼関係を築いていきましょう。