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訪問看護ステーションは利益が出るのか?看護師一人当たりの売り上げは?
2023/12/27
訪問看護サービスは病院や診療所などの保健医療機関が行う場合と、法人格にかかわらず事業所指定を受けて訪問看護サービスを提供する訪問看護ステーションがあります。
提供する訪問介護サービスの基本的な内容に大きな違いはありませんが、必要な人員配置や介護報酬は異なります。
利益を出すには訪問看護師一人当たり、どのくらいの売り上げを出せばいいのでしょうか。
今回は訪問看護ステーションの売り上げについて考えてみます。
目次
訪問看護ステーションの一人当たりの売り上げ
厚生労働省の「令和4年度介護事業経営概況調査結果」では、訪問一回当たりの収入の全国平均は8,041円、訪問看護職員(常勤換算)一人当たりの訪問回数の全国平均は78.5回/月となっています。
この全国平均から計算すると、訪問看護師一人当たりの売り上げは78.5×8,041=約63万円/月となります。
これはあくまでも全国平均から計算した金額であり、訪問看護ステーションの規模や地域、加算減算の状況によって変動するため、個々の事業所の売り上げと単純には比較できませんが、平均値ということでひとつの目安となります。
利益が出る売り上げを知る
収入が支出を上回れば利益が出ることになります。どのくらい売り上げを上げれば利益が出るかを予測するには、損益分岐点を把握しておくことです。
損益分岐点とは売り上げと費用が同じ金額で、利益がゼロとなるポイントのことです。売上高が損益分岐点より多いほど、利益が大きいことになります。
固定費と変動費
損益分岐点を考えるとき、費用は固定費と変動費に分けます。
固定費と変動費の分類は、事業形態や考え方によっても変わることがありますが、訪問看護の場合、固定費は介護報酬・診療報酬がゼロであっても必要な費用と考えることができ、人件費や家賃、保険料などが挙げられます。
変動費は収益に比例して増減する費用と考えられ、医薬品や衛生品費、地域によってはガソリン代も変動費と考えることができます。
固定費は毎月変わらないので、変動費が低く抑えられれば損益分岐点が下がり、同じ売り上げでも利益が大きくなるといえます。
訪問看護ステーションの売り上げ
訪問看護サービスの報酬は、利用者の状態によって介護保険または医療保険のどちらかが適用されます。
要介護認定を受けている利用者の場合、基本的には介護保険が優先されます。
介護保険の報酬
介護保険で実施される訪問看護サービスは報酬単位に単価をかけて計算します。単価は一律ではなく、訪問看護ステーションの所在地によって異なります。
訪問看護ステーションの基本報酬は次の通りです。
・所要時間20分未満の場合 | 313単位 |
・所要時間30分未満の場合 | 470単位 |
・所要時間30分以上1時間未満の場合 | 821単位 |
・所要時間1時間以上1時間30分未満の場合 | 1,125単位 |
・理学療法士、作業療法士または言語聴覚士による訪問の場合 | (一回につき)293単位 |
この他に提供するサービスの内容や人員配置などによって加算や減算が設けられています。
加算要件を満たしているものについては単位数が加算され、減算要件に該当する場合には所定の単位数が減算されます。
医療保険の療養費
医療保険で実施される訪問看護サービスは基本療養費として一日当たりの金額が定められています。
・訪問看護基本療養費(Ⅰ)
イ保健師、助産師又は看護師による場合(ハを除く) | 週3日目まで 週4日目以降 |
5,550円 6,550円 |
ロ準看護師による場合 | 週3日目まで 週4日目以降 |
5,050円 6,050円 |
ハ悪性腫瘍の利用者に対する緩和ケア、褥瘡ケア又は人工肛門ケア及び人工膀胱ケアにかかる専門の研修を受けた看護師による場合 | 12,850円 | |
ニ理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士による場合 | 5,550円 |
・訪問看護基本療養費(Ⅱ)
イ保健師、助産師又は看護師による場合 (ハを除く) |
同一日に2人 | 週3日目まで 週4日目以降 |
5,550円 6,550円 |
同一日に3人以上 | 週3日目まで 週4日目以降 |
2,780円 3,280円 |
|
ロ准看護師による場合 | 同一日に2人 | 週3日目まで 週4日目以降 |
5,050円 6,050円 |
同一日に3人以上 | 週3日目まで 週4日目以降 |
2,530円 3,030円 |
|
ハ悪性腫瘍の利用者に対する緩和ケア、褥瘡ケア又は人工肛門ケア及び人工膀胱ケアにかかる専門の研修を受けた看護師による場合 |
|
12,850円 | |
ニ理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士による場合 | 同一日に2人 同一日に3人以上 |
5,550円 2,780円 |
・訪問看護基本療養費(Ⅲ) 8,500円
精神科疾患のある利用者の訪問看護サービスについては別途、精神科訪問看護基本療養費が定められています。
売り上げを上げるための稼働率
稼働率とは、事業における作業効率や生産効率を算出するために用いられる数値ですが、事業の種類によって考え方や計算方法は異なります。
訪問看護ステーションの稼働率は「訪問看護師が勤務時間内にサービス提供をした時間」と考えることができます。
訪問スケジュールの調整やパート職員の配置時間などの調整によって、移動時間や待ち時間などのムダを無くし、事務作業の効率化によって稼働率を上げることができます。
稼働率の計算方法
訪問看護ステーションの稼働率の計算は、事業所の運営状況などによって一律ではありませんが、基本的には次の式で計算できます。
「1か月のサービス提供時間数÷訪問看護師等の1か月の勤務延時間数×100=稼働率」
勤務延時間数は休憩時間を含めない出勤時間で、残業時間も含めます。稼働率が高いほど売り上げが上がる可能性がありますが、稼働率を考えるときは、訪問に必要な提供時間と移動時間も考慮した、ある程度の余裕を持つことも必要なため、訪問看護ステーションの場合には稼働率60%以上が目安といわれています。
訪問看護ステーションが利益を出すには
訪問看護師一人当たりの売り上げを上げるために稼働率を上げることはもちろん大切ですが、利益を出すには他にもできることがあります。
売り上げを増やすために
訪問看護師の数と利用者数のバランスが適正であることが必要です。
訪問看護師数に対して利用者数が少ないと稼働率が低くなり、職員数が少ないのに利用者数が多いと、労働環境が悪化する可能性があります。
そのため安定して利用者数が確保できることと、訪問看護師が定着することの両方が必要となります。
訪問看護サービス提供地域の居宅事業所のケアマネジャーや、病院のソーシャルワーカーなどと連携を図り、定期的な営業で新規の利用者を確保できることが理想的です。
また無理がなく、効率的な訪問スケジュールによって訪問看護師の稼働率を上げ、適切に加算を算定できることで売り上げの増加につながります。
費用を抑えるために
費用は固定費と変動費に分けられることは前述しましたが、費用を抑えるために有効なのは固定費を低く抑えることです。固定費の中でも人件費は非常に多くを占めています。
もちろん、必要数の人員を確保しておくことは重要ですが、訪問看護職員一人当たりの稼働率が低いと利益にはつながりません。
ICT導入などにより事務作業を効率化することで人件費を抑え、さらにソフトや機器、通信費なども見直すことで、固定費を削減できることがあります。
休暇の取りやすい環境や職員同士の人間関係にも配慮し、働きやすい職場環境を作ることで職員が定着していれば、人材採用のためのコストなども抑制できます。
訪問看護ステーションは利益が出るのか?看護師一人当たりの売り上げは?
全国の平均値などから考えると、訪問看護師一人当たりの売り上げは1か月あたり約63万円となり、稼働率は60%以上が目安といわれています。
しかし、売り上げが高くても費用が過剰であれば利益は出ませんし、稼働率が高くてもスケジューリングに無理があったり、職場環境が悪いと職員が定着しません。
利益を上げるためには、訪問看護師の売り上げだけに注目せず、さまざまな観点から考えることが必要です。