介護施設で提供される介護食とは?目的や必要になる理由など詳しく解説

2023/09/07

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介護施設では「介護食」と呼ばれる食事を提供することがあります。

食べる方の心身の状態に合った介護食を提供することで、食事中の事故防止や健康維持に役立っています。

では、介護食とは具体的にどのような食事のことでしょうか。介護施設で提供される介護食について紹介します。

介護食とは

介護食は、何らかの理由によって食べる機能が低下した方が安全に食事を摂るために、食事の形や性状を調整した食事のことです。

その人のかむ機能や飲み込む機能に合わせて、食材の大きさや調理方法を変えたり、ゲル化剤などを使用してペースト状やゼリー状にすることもあります。

他にも高齢者食、老人食、やわらか食、嚥下食などと呼ばれることもありますが、どれも一般的な食事が摂りにくい方が、安全に食べることができるように調整した食事です。

介護食が必要な人

介護食を食べる必要があるのはどのような人でしょうか。介護食という名称から「高齢者が食べる食事」というイメージですが、必ずしもそうではありません。

また、高齢者になったら介護食を食べなくてはならないということでもありませんし、介護施設で提供する食事だけを介護食と呼ぶわけでもありません。

さまざまな理由によって一般的な食事が食べにくくなったり、食べる機能が低下して誤嚥や窒息といった危険が伴う場合に必要なのが介護食です。

介護食が必要となる理由

では、どのような理由で介護食が必要となるのでしょうか。さまざまな理由が考えられますが、大きな理由には疾患と加齢が起因となる摂食嚥下障害があります。

<加齢による摂食嚥下障害>

年齢を重ねることで心身のさまざまな器官に機能低下や機能障害が生じ、食事が摂りにくくなることがあります。

例えば歯がむし歯や歯周病によって失われたり、唾液の量が減少するなども食べることに悪影響を及ぼします。

あごや唇、舌や首などの筋力が低下しても、噛んだり飲み込んだりしにくくなることがあります。それらは一見して重大な変化ではなくても少しずつ進行し、それまでと同じ食事が食べにくくなっていきます。

また認知症によって食べ物の形状や硬さ、大きさなどが適切に認識できなくなると、口いっぱいに食べ物を詰め込んだり、かき込んで食べたり、よく噛まずに丸飲み込みするような食べ方になることがあり、安全に食べるために介護食が必要となることがあります。

<疾患による摂食嚥下障害>

疾患や疾患の後遺症などによって、介護食が必要となることがあります。

脳卒中の後遺症などで麻痺があったり、頭頚部や口腔のがんなどの手術で、組織の一部を切除するなどの治療によって、それまでと同じ食事が摂りにくくなることがあります。

介護食の目的

介護食の大きな目的のひとつは、食事の形や性状を調整することで安全に食事を食べられるようにすることですが、その他にもいくつかの目的が考えられます。

誤嚥や窒息などの事故を防ぐ

介護食の最も重要な目的のひとつは、誤嚥や窒息を防ぎ安全に食べられることです。

誤嚥は、食べ物や飲み物、唾液などが食道ではなく気管に入ってしまうことで、誤嚥性肺炎の原因となることがあります。

窒息は食べ物が気管に詰まってしまい、呼吸ができなくなることです。食べる方の機能にあった形態の介護食を提供することで、誤嚥や窒息のリスクを低減することに役立ちます。

誤嚥や窒息などの事故を防ぐ

摂食嚥下のリハビリテーション

特に疾患の治療後には食べる機能が変化していることがあり、口から食事を摂ることが困難なこともあります。

医師の指示に基づき、適切な食事形態で食事を食べ始めることは、摂食嚥下機能を回復するためのリハビリテーションの役割があります。

低栄養の予防・改善

加齢に伴って食事の量が減少することは珍しくありませんが、食べる人の摂食嚥下機能に合った介護食を提供することで食べる量が増え、低栄養を防ぐことに役立ちます。

また介護施設では、食事に特別な栄養を添加したり栄養が添加されている商品を利用することで、低栄養の改善を目的とした介護食を提供することがあります。

介護施設の介護食

介護施設で提供される介護食は、ひとりひとりの食べる機能に合わせて何段階かの食事形態に分けられています。

食事形態の名称(呼び方)は各介護施設で異なることがありますが、食事の形態や性状は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会による「嚥下調整食分類2021」に統一されるようになってきています。

医師の指示に基づき多職種で検討したうえで、その人の摂食嚥下機能にあった段階の食事を提供しますが、かむ力や飲み込む力以外にも、食事摂取に必要な運動機能や認知機能など、多くの要素を含めて検討されます。

常食

介護食として提供される場合は「常食」という名称であっても、一般的な飲食店で提供される食事と全く同じというわけではありません。

ご飯は水加減を調整してやわらかめに炊き、野菜もやわらかく煮ます。噛み切りやすいように食材に切り込みを入れたり、骨抜きの魚などを使用することがあります。

常食

嚥下調整食4

箸やスプーンで切れるやわらかさを想定しています。

かむ力が弱くなっていたり、歯が無くなっていても歯ぐきで押しつぶすことができるように、食材や調理方法に配慮した食事です。

食材や料理によっては食べやすい大きさに切ることもあります。

嚥下調整食3

形はあっても、舌と上あごで押しつぶして食べることができることを想定しています。

パサパサしていたり、口の中でばらけてまとまりにくいものは、とろみのあるあんやソースをかけることもあります。

液体にむせ込みのある場合は、料理の汁気やお粥の水分にとろみをつけるなどの配慮が必要なこともあります。

嚥下調整食2-2

口の中で食べ物を、飲み込める状態にまとめることができることを想定しています。

フードカッターやミキサーなどを使用するので、見た目では何の料理かがわからなくなっていることがあります。

スプーンですくって食べることができる性状ですが、べたつきがなく、水分にも配慮が必要です。

嚥下調整食2-2

嚥下調整食2-1

ミキサーなどを使って粒を無くした、なめらかなペースト状の食事です。

スプーンですくって食べることができる性状ですが、べたつきがなく、水分にも配慮が必要です。

嚥下調整食1j

均質なゼリーやプリン、ムース状で、少量をすくって口に入れたときに、そのまま丸のみ込みが可能な状態の食事です。

嚥下訓練食0t・0j

重度の摂食嚥下障害のある方に対して、摂食嚥下機能の評価や直接訓練に使用するとろみのついた液体やゼリー状の食品です。

介護用食品

近年はドラッグストアなどでも、介護用または高齢者用とされる食品がレトルトパックなどで販売されるようになっており、配食サービスのお弁当などにも食事形態を調整した介護食があります。

介護施設では食材や調理方法に配慮するだけではなく、業務用の商品や特別用途食品などを利用して介護食を提供しています。

骨を取った切り身の魚

あらかじめ骨を取り除いた魚の切り身で、近年はスーパーなどでも手に入りやすくなっています。介護食だけではなく、離乳食や小さな子どもにも安心して使うことができます。

真空調理

真空調理は、専用のフィルムバッグの中に食材と調味液を入れて真空の状態で密閉し、加熱調理する方法です。

調味液の浸透がよく食材が崩れずにやわらかくなるため、介護食に適した調理方法と考えられています。

専用の機材や備品が必要なため、介護施設の厨房で真空調理ができることは少ないかもしれませんが、業務用に真空調理された商品を介護食に利用することがあります。

ゼリー食・ソフト食

ゼリーやムース状に形成された食品です。

「肉じゃが味」「鯖のみそ煮味」など、味がついていてそのまま料理として提供できるものや、「鮭の切り身」「ブロッコリー」「トマト」など食材の状態でゼリーやムース状に形成されていて、調理や味付けができるものもあります。

ゲル化剤

ペースト状にした料理を再形成したりとろみをつけて、ゼリー食やソフト食を作るために使用するのがゲル化剤です。

ゲル化剤には短時間で凝固したり、加熱が不要な商品もあります。ベタベタしないお粥ゼリーを作るために、お粥用のゲル化剤もあります。

ゲル化剤のうち主に液体にとろみをつけるために使用するものを「とろみ剤」と呼び、適量を液体に混ぜるだけでとろみをつけることができます。

ゲル化剤

h3 栄養補助食品

介護施設では低栄養の予防や改善のために、タンパク質やビタミン、ミネラルなど、特別な栄養素を添加した食品を介護食として利用することがあります。

また栄養量を増やす目的で、調理中や調理後にパウダー状のタンパク質や食物繊維、MCTオイルなど特別な食品を加えることもあります。

介護施設で提供される介護食とは?

介護食は、何らかの原因で食べる機能が低下した方が安全に食事を摂るために、食事の形や性状を調整した食事のことです。

介護食には安全に食事を摂ること以外にも、いくつかの目的があります。

現在多くの介護施設で、日本摂食嚥下リハビリテーション学会による「嚥下調整食分類2021」を参考に、業務用の食材や特別用途食品を使って、利用者の方々が安全においしく食事が摂れるように介護食を提供しています。