どんな食事が提供されている?介護施設のイベント食の目的について

2023/09/07

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介護施設では、年中行事に合わせてさまざまなイベントが行われています。

イベントの日にはイベントの内容に合わせた「イベント食」が提供されることがあり、利用者の方々の楽しみとなっています。

今回は、介護施設で提供されるイベント食とはどのような食事なのか紹介します。

介護施設のイベント食の目的

日本には季節ごとにさまざまな年中行事があります。

年中行事と食事には古くから結びつきがあり、それぞれに意味があったり祈りが込められており、伝統として受け継がれています。

お正月のおせち料理やお雑煮はその代表ともいえる食事ですが、地域によっても使われる食材や料理の内容が異なることがあります。

そのようなイベント食を介護施設で提供することは、そもそもの意味の他にもいくつかの目的があります。

イベントを盛り上げる

例えばお正月や夏祭り、クリスマスなどのイベントは、一般的にも特有の雰囲気があり、それぞれに特有の食べ物が想像されます。

イベントに合った内容の食事を、盛り付けや提供方法を変えるなど、いつもの食事とは違った演出をすることでイベントを盛り上げます。

季節を感じる

日本には季節の節目となる「五節句」があり、それぞれにちなんだ食べ物があります。

1月7日は「人日(じんんじつ)の節句」といい、朝に七草粥を食べます。

3月3日は「桃の節句」でちらし寿司やハマグリのお吸い物、5月5日の「端午の節句」ではちまきや柏餅、7月7日「七夕の節句」にはそうめん、9月9日は「重陽の節句」で栗ご飯や食用菊などを食べることが伝統として継承されています。

これらの節句以外にも季節ごとにイベントがあり、旬の食材を提供することで季節を感じることができます。

長寿のお祝い

介護施設では利用者の長寿と健康を願って、お誕生会や米寿や卒寿といった長寿をお祝いするイベントなどが行われます。

食事ではいつもより少しだけ豪華にしたり、その月の誕生者にミニケーキを付けるなど、お祝いの気持ちを伝えます。

お祝い事はお祝いされる人はもちろん、周囲の人々も明るい気持ちになります。

長寿のお祝い

食欲を増進する

イベント食では、日常的には使用できない食材が使われていたり、いつもとは違う食器を使って手の込んだ盛り付けがされているなど、見た目が華やかになり食欲を増進する効果があります。

イベント食のときはいつもよりも一皿多く付いていたり、デザートがあるなどボリュームが多いこともありますが、むしろいつもよりも残食が少なくなることは珍しくありません。

介護施設のイベント食の問題点

イベント食にはさまざまな良い効果が期待でき、何よりも利用者の方々にとって楽しみな食事ですが、イベント食の提供にはいくつかの問題点もあります。

食材料費がかかる

イベント食の提供にはやはり通常の食事よりも食材料費がかかります。

多くの介護施設では、十分とはいえない食材料費をやりくりしてイベント食を提供しており、直営給食か委託給食かにかかわらず、献立作成担当者を悩ませる問題のひとつです。

手間がかかる

イベント食には通常の食事よりも作業工程が多い料理があったり、皿数が増えるなど手間も時間もかかることがあります。

通常の食事と同じ人員で、同じ時間内に完成して提供することが困難な場合もあり、委託給食の場合にはヘルプのスタッフを依頼することもあります。

食べにくい食材がある

お正月のお餅や七夕のそうめん、クリスマスの鶏もも肉など、イベントには欠かせない食材であっても、高齢者には食べにくい食材があります。

特に介護施設の利用者には摂食嚥下機能が低下している方もいるため、窒息や誤嚥などの事故を防ぐために食事形態を調整しなくてはりません。

食事形態を調整することで料理の見た目が変わってしまったり、代替食品を使用せざるを得ないこともあります。

好き嫌いがある

一般的に好まれる方が多いお刺身やウナギなどの献立も、やはり苦手な方がいます。

そのような方に代替の献立を提供することで、調理における作業量は増えてしまいますし、イベント食との価格差や料理の見た目、食事中の様子などにも配慮が必要となることがあります。

疾患の対応

イベント食では行事にちなんだ食材や献立があるため、どうしても塩分やエネルギーなど栄養の調節が難しくなります。

介護施設では慢性疾患の食事療法によって塩分やエネルギー、その他の栄養素に制限がある方も多く、日常の食事では医師の指示により、ひとりひとりの疾患に対応した食事が提供されています。

イベント食の前後の食事で調整することで提供が可能な場合もありますが、体調によっては食事療法のために、イベント食の提供が困難な方もいます。

介護施設のイベント食の具体例

具体的にイベント食ではどのような献立が提供されているのでしょうか。

具体的な料理例と、高齢者にとって食べにくい食材の代替品や食べやすくするための工夫も紹介します。

お正月

お正月といえば、欠かせないのがおせち料理やお雑煮です。

お雑煮に欠かせないお餅はもちろん、おせち料理にはかまぼこや昆布巻き、えびのうま煮、たたきごぼう、田作り、煮しめの鶏肉など、高齢者には食べにくい料理が非常に多くあります。

介護施設の多くでは、おせち料理は全てを手作りするのは困難なため、高齢者にも比較的食べやすいものを選んで盛り合わせたり、高齢者用にやわらかく調理したおせち料理を使用することがあります。

お餅も摂食嚥下機能に問題がない方には、職員が見守りの上で、あらかじめ小さく切って提供したり、米粉や白玉粉、豆腐などを使って伸びないお餅風のものをお雑煮にすることもあります。

近年は介護食用のやわらかくて伸びないお餅も商品化されているので、そういった商品を使用することもあります。

お正月

節分

節分は恵方巻(のり巻き)です。

本来、節分の恵方巻は1本を丸ごと食べるといわれていますが、酢飯に巻いて湿ったのりは噛み切りにくく、口の中に貼りついてしまうこともあって危険なため、介護施設では食べやすい太さに切って提供します。

近年は嚙み切りやすくするために、目には見えない程度の小さな穴が開いた板のりも販売されているので、そのような商品を使用したり、のりの代わりに薄焼き卵で巻くなどの工夫をすることもあります。

喫食者の摂食嚥下機能によって、巻き込む具をやわらかいものにしたり、小さく切っておくなどの工夫をして巻きます。

食べやすい太さに切ってから盛り付け、さらに数か所、キッチンばさみでのりに切り込みを入れるなどの配慮が必要なこともあります。

土用の丑

土用の丑はうなぎです。

うなぎはやわらかくて食べやすく、高齢者にも好まれる食材ですが高価であり、介護施設では一般的にイメージするようなボリュームのあるうな重を提供できることは少ないかもしれません。

うなぎをひと口大に切って錦糸卵などの具と一緒にごはんの上にのせてうなぎちらしにすると、うなぎの量は多くなくても彩りよく、食べやすくなり喜ばれます。

本来は「う」のつく食べ物を食べるのが習わしということで、うどんやキュウリ、スイカ、冬瓜、カボチャ、ゴーヤなどの瓜を提供する介護施設もあるかもしれません。

土用の丑

納涼祭

夏祭りの縁日のように模擬屋台を設営するなど、大掛かりなイベントを実施する介護施設もあります。

縁日の屋台といえばお好み焼き、焼きそば、焼き鳥、じゃがバター、チョコバナナ、ラムネ、綿あめなどいろいろとあります。

お好み焼きや焼きそばの具に欠かせないキャベツは小さめに切り下茹でをしておいたり、豚肉は薄切りをさらに小さめに切ったり、ひき肉を使うことで食べやすくなります。

焼き鳥は鶏ひき肉に豆腐や里芋などをつなぎに入れたつくねにすると、やわらかくて食べやすくなります。

敬老会

敬老会は長寿を祝う、介護施設にとっては大切なイベントのひとつです。

9月9日の重陽の節句は別名を「栗の節句」といい、栗を食べる習わしがあるそうですが、栗も高齢者にとってはポロポロとして硬く食べにくいことが多いため、ペーストにしてお菓子に使うことが多い食材です。

敬老会のメニューとしては、お赤飯にお刺身や魚の西京焼き、秋の食材の炊き合わせなどを提供することがあります。

その他

その他にも食事をメインとしたイベントもあります。

小さめのケーキや和菓子などを数種類用意して、好きなものを選んでいただくおやつバイキングや、ホットケーキやみつ豆などに好きなトッピングしていたただくおやつの手作りレクリエーション、職員が利用者の前で実演しながら提供するそば打ちイベントや、握りずしイベントなどが行われる介護施設もありますが、近年は感染症の影響により中止されていることも多いのが残念です。

介護施設のイベント食のまとめ

介護施設ではイベントに合わせて、いろいろな食事が提供されます。

食材料費の調整や喫食者の体調や摂食嚥下機能にも配慮しながら、旬の食材や年中行事の風習に合った食材を使ってイベントを盛り上げ、利用者の方々に楽しん食べていただくために、いろいろな工夫がされています。